地平線の果てまで広がる迷路
どうするか考えたが、マイがおずおずと意見してくれた。
「このくらいの距離なら、テレポートでも大丈夫です……多分」
「そう? MPの減りが早いだろ、あれ」
「確かに」
マイは頷いたが、気丈にも微笑んだ。
「でも、さすがにここは、そう距離もないですし」
「そうか……わかった! じゃあ頼むよ」
「はいっ」
早速、マイの身体に俺を含めて皆が手を触れ、次の瞬間、岸辺へ移動した。
後は俺がシールドを解除し、呆気なく地上に降り立った。
「いやぁ、テレポート様々だよな」
密かに照れているマイを激賞したところで……俺はようやく、落ち着いて周囲を眺めることができた――が。
「……なんだかここって」
「巨大な純白の迷路、そのものですね」
俺があえて言わなかったことを、マイがあっさりと言ってくれた。
そう、そうなのだ。
例えばテーマパークで、植林で作った迷路とかがたまにあったりする。別に植林じゃなくても、背の高いパネルを張り巡らせて完成させた迷路とかな。
迷路の面積が、デカければデカいほど出口へ向かう時間がかかるので、あまり頻繁に見かけるアトラクションじゃないが。
「でも、顔を上げたら、普通に空が見えてるわよ?」
エレインが青空を見上げて言った。
「上まで蓋をされた迷路じゃないなら、壁の上を歩いた方が早くない? ここの壁、上から見た時には、厚みもたっぷりありそうだったし」
こんこんと白い壁を叩いて見せる。
なるほど、ロクに音も立たない。かなり厚みがあるな……少なくとも、上を歩けるくらいはある。
「……素直に壁に立てれば、ですけどね」
チュートリアルが嫌なことを言う。
でも、心配はわかる。混沌が都内に作った閉鎖空間なのだから、むしろ見た目そのままじゃないと疑った方がいい。
俺は試しにポケットのコイン入れから五円玉を取り出し、空に向かって投げてみた。
なんだぁ、バシュッと光がっ――
「く、砕けたぞっ」
「……なんてことでしょう」
「これはひどいわっ」
「あー、そんなことだと思いました」
俺の呻き声の後、皆がそれぞれ口にしたが……さもありなん。
俺が上空へ投げた硬貨は、壁の丈を超えるあたりで何かにぶつかり、無残にも破壊されてバラバラになったのである。
俺達が落ちた時には、あんなシールドモドキはなかったはずだがっ。
「ひゃ、百円玉を投げなくて正解だったっ」
俺は胸を撫で下ろした。
「それより、試しに飛び上がらなくて良かったと言うべきでしょう」
チュートリアルがため息をつく。
「今のハヤトの跳躍力なら、この壁くらい簡単に越せますからね……あえて試さなかくて、良かったじゃないですか」
「いやぁ、全くだな!」
まだ自分の力に慣れてないから、そんなこと思いつかなかったが、越せるとわかっていたら、確かに自分で飛び上がったかも。
「危ねぇええ。油断も隙もないぞ、ちくしょうっ」
「……とにかく、歩くしかないということですか」
チュートリアルが肩をすくめ、俺達は渋々歩き始めた。
他に移動手段ないしな。
歩き出して二分も立たないうちに、マイがふと呟いた。
「でもここの迷路、空から落ちた時に見下ろした感じでは、地平線の果てまで広がっていましたよ」
「うえっ。ゴールがどこかわからないな、それじゃ。待って、今マップを」
言いかけた俺を、チュートリアルが「静かにっ」と遮った。
尋ねかけて、俺も気付いた。
「足音が聞こえるっ……しかも、複数っ」
「まさか、こんな場所に魔獣が?」
声を低めてエレインが尋ねたが、俺は首を振った。
「いや、よく耳を済ませてみろ。こりゃ、複数の人間だな。つまり、他のパーティーだ」
「同じく近くに落ちたパーティーがいたわけですね……」
緊張した顔で、マイが腰の刀に手をかけた。
「どうするの、ハヤト? なんなら他の道を行く? ちょうどそこに、分岐が見えるし。それとも――」
「極力、戦いは避けたいが」
エレインに囁いたその時、敵の足音がふいに止まった。
……さすがに向こうも、気付いたようだ。




