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否応なく、我々も飛び込むしかないでしょう

 例によって例のごとく、またキィィィィンという微かな音以外は、なにも聞こえなくなり、周囲の音がほぼばっさりカットされる。


 ……と思ったら、チュートリアルの声がした。


「ああっ、少ないとはいえ、動いている人がっ」






「うおうっ」


 俺は疾走しつつ、思わず声を上げた。


「あんた、ちゃんと動けるのかっ」

「ふふん」


 抱えられたままで、得意そうに俺を見上げるチュートリアルである。


「忘れましたか? こう見えて私は女神ですよっ。その気になれば、自分で同じ速度で走ることだってできる――」

「なら、自分で走るべしっ」


 俺が立ち止まって強制的に下ろそうとしたら、チュートリアルが抵抗した。


「ほ、放り出さないでっ。本当はあんまり自信ありませんっ。置いてかれたら、目も当てられませんしっ」

「いやしかし、実際、あんただけは普通に俺と同等に」


 ――走れそうやんけっと言いかけたが。

 そこでいきなり俺達の少し先を交差した奴がいる……それも猛スピードで。


「ソロのあいつだっ」


 黒衣の少年を見て、俺はさっきの奴だとわかった。

 こちらをちらっと見ただけで駆け去ったが、ありゃどう見ても俺と同等か……あるいは俺以上の加速だったぞっ。


 呆然として周囲を見れば、他にもポツポツ程度の人数ではあるが、俺と同じく集団を遥かに抜け出して爆走している奴らがいた。


 さっきのソロ以外は、みんな俺みたいに仲間を抱えていたが。





「い、いかんっ。既に数名抜かされたっ」


 俺は口論をやめ、慌てて疾走を再開した。

 だいいたいこれ、立ち止まっていても加速状態を解除しない限り、目を見張るスピードでMPが減っていくからなっ。


 今の俺のレベルは50で、MPもたんまりあるが、油断はできんっ。

 結局、放り出さなかったチュートリアルは、安心したのか、また声を上げた。


「うわぁ、混沌は無茶しますねっ。本当に上空から炎がっ」

「うえっ、マジか!」


 俺が慌てて空を見上げると、確かに無数とも言える炎の固まりが、ジャンジャン地上に降り注ぎつつあった。

 もちろん、俺から見るとゆるやかに下降しつつある、という程度のスピードだが、普通に走る者には、悪夢のはずだ。


「本当だ……こりゃ、マジで数割ほど減りそうだぞ、最初から」

「私達にはハヤトがいて、助かりました!」


 もう放り出されたくないのか、チュートリアルはふいにヨイショしてくれた。


「お世辞はいいから、次にこんなことあったら、自分で加速してくれなっ。さすがに両脇と背中に人抱えてたら、走るのも大変だっ――よし、着いたっ」


 ようやく、中空に赤いマーカーが浮いている中央に至った……けど。





「おいおい、これどうすんだ!?」


 眼前に、四角い……そうだな、十二畳ほどの広さがある穴が開いてる。

 もうホント、モロに穴で、覗き込んでも先に突入した連中は見えない。

 俺はわざと加速を解除せず、最初に下ろしたチュートリアルに尋ねた。


「どうする、これ? 俺より先についた連中は、軒並み中へ飛び込んだらしいけど」

「……否応なく、我々も飛び込むしかないでしょう」


 気が進まなそうにチュートリアルは答えた。


「そうだ、加速解除して、マイも動ける状態にしてください。彼女のテレポートなら、いざという時でも危機を逃れられます」

「そうだな、よしっ」


 早速、俺は加速スキルを解除したが――。

 途端に、ドッカンドッカンと派手な音が連続して、ぞっとした。

 加速中はまだ落下の途中だったが、解除した途端、炎の弾がガンガン落ちてくる、ど真ん中にいるという……。


「きゃあっ、いきなりなにっ」

「こ、攻撃ですか!」


 エレインとマイを下ろすと、二人して同時に叫んだ。

 まあ、気がついた瞬間にこれなら、そりゃ慌てるだろう。





「もう真ん中に来てるんだっ。穴しかないけど、ここでもたもたしてたらヤバそうだっ」


 俺は早口で叫んだ。

 こうしている間にも、次々とこっちへ駆けてくる連中が、炎の固まりの餌食になっている。


「みんなで飛び込もう! マイ、いざという時はテレポートで頼むっ」

「わかりましたっ」


「えぇえええ、でもこんな穴にいきなり――て、なにすんのぉおお」


「いいから、行くのっ」


 問答無用でエレインの背中を押して穴に飛び込ませ、俺達もすぐさまその後を追った。 


現代恋愛もので、「妹改造計画」というのをアップしてます。

よろしければ、読んでみてください。

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