人外もチラホラいる
俺達は戦闘装備を調え、売店前に集合している。
もちろん、昨日の時点で使えそうなスキルだって増やしてある。
俺とマイはかなり元気溢れる様子だったと自負しているが、チュートリアルとエレインがなぜか腰を屈めて唸っていた。
「どしたん?」
「……ここの専用ダンジョン、途中で天井がやたら低いところがあるのよ。何度も巡回して戦ってたら、腰が痛くて」
「み、右に同じくですぅ」
「チュートリアルもか……て、それでわかった。前に通路に倒れていたのって、もしかしなくても、一人でダンジョン回ってたのか!」
「う……バレましたね」
バツが悪そうに背筋を伸ばし、また「あたた」と腰を叩くチュートリアルである。
ばーさんかと。
「けど、一緒にダンジョン潜ったマイは、平気そうじゃないか?」
俺は、軽く胸の下で腕を組んだモデルのような姿勢で、爽やかに立つマイを見て、首を傾げた。この子なんか、今すぐ全開で戦えそうだ。まあ、俺もだが。
「知らないわよっ。マイは腰を屈めるのに慣れてんじゃないの!」
「きっと、実家が農家の人なのですっ」
金髪さん二人の皮肉にも、マイはびくともしなかった。
「個人的には……普段から体操しているからだと思います」
「おおっ、さすがは日常的に体型に気を遣っているアイドル! まさに雲泥の差だな」
俺が破顔すると、むっとしたようにチュートリアルが時計を見た。
「そろそろ集合半時間前です。早めに出ますかっ」
「俺はいいぜ」
「わたしも」
「……よくないけど、仕方ないです」
一部、弱気な発言があったが、総勢四名、異論ナシだった。
今回は、まさかのチュートリアルも参戦だが。
「では、転送します!」
もはや聞き慣れたチュートリアルの声と同時に、俺達の姿はその場から消えた。
出現したのは、最後にいた東京タワーの根元部分だが、そこに出た途端、いきなり大歓声がした。
「うぉおおおおお、本当に舞ちゃんがいるぅううう」
「舞ちゃーーーんっ」
「アイスドール万歳っ」
「舞っ、俺だあぁ! 結婚してくれっ」
「うわぁ」
「なにこれぇえええ」
「……これ全部、マイのファンですか?」
俺が呻き、エレインがげんなりして周囲を見渡し、そしてチュートリアルが唖然とした声に出した。
いや、それくらい東京タワー周辺に人が集まっていたので。
どういうわけか、集合場所を知られていたらしい。
しかも、そのうちの半分以上は、多分、マイのファンだ。野郎七割という陣容だが、三割くらいは意外にも女子である。
なぜか全員、タワーの敷地内には入れないようだが、その代わり、敷地の周囲にはめちゃくちゃいるっ。
マイ本人は、忍者服のまま、困惑したように周囲を見ていた。
『ふふふ……困っているようだな?』
いきなり、混沌の声がした。
『時間前ではあるが、なんなら今すぐ、本番のスタート地点へ転送してやるが』
「別な場所に移動予定なら、そうしてくださいっ」
すかさずマイが叫び、俺達の姿はその場からまた消えた。
今度出現したのは、視界がぐんと広がった、ただっ広い場所だったが。
「……おい、まだファンの人が大勢いる――いや、違うっ」
完全に四方に視界が広がっているが、俺達を含めて、円形にパーティーが配置されていた。この広さでこの人数だと……パーティー数で千は下らないぞっ。
「すげー……こいつらのパーティーって、全部、どっかの異世界で勝ち抜いた連中か?」
「に、人間に見えない人も、ちらほらいたりするんだけどっ」
エレインの声が少し震えていた。
実際、全身緑色で真っ裸の奴とか、人外にしか見えんわ。
「これはさすがに、全てのパーティーを下すのは無理があるような気がします。数が多すぎますもの」
マイの意見に俺も頷いた。
「やっぱ、ひたすら先へ進むのが賢明か」
「それは……どうでしょうね」
最後にチュートリアルが不吉なことを言ってくれた。
しかも、俺もそう簡単にはいかない予感がしてるんだな、これが。
短め予定の連載で、「街ごと強制転移した俺は、未来の断片を見る」というのを初めてます。
よろしければ、お願いします。
……街ごと異世界転移で、主人公は断片的に未来が読める……それと、好感度ゲージのお陰で、女の子の好感度がわかる……当面は、生き残りが目標。そんな物語です。