いよいよ本番の朝が来た
とにかく、全ては明日だ。
本当はステージ開始前の休憩時間にあたる今日、まるまる一日あるので、久しぶりに外へ出たかったのだが、あいにく混沌の馬鹿が、俺達の顔を広めてしまった。
こんなんじゃ、このキャンプにいるしかないな。
落ち着き始めた都内でも、メンツの中にマイが入っていた衝撃は大きかったらしく、早くも復活し始めたテレビ局が、早速にして都内向けに「トップアイドルの天川舞が、謎の疑似ゲームに参加っ」などのニュースを流したらしい。
戦闘参加を表明したチュートリアルは、午後遅くにまた避難所の方へ顔を出したらしく、戻って来た時に呆れたように教えてくれた。
「俺はマイちゃん親衛隊だから、会わせろっ――という人が、軽く三桁くらいは私に詰め寄ってきましたね。もちろん、遊んでるわけじゃないので断りましたが、しつこかったですねぇ。あまりにもくどい人は、例によって叩き出しましたが」
ちょうど、マイとエレインが入浴している時間中で、外のソファーでダベっていたのは、俺とチュートリアルだけだった。
たわけた話を聞かされ、俺はアンパンをかじるのを中止した。
「みんなの反応は、どうなんだ? 一応は、好意的? マイはまたアイドルに戻れそうかな?」
「う~ん……どうもハヤトの存在が気に入らないようですね、みんな」
「えーーーっ。予想はしてたけど、ホントに俺が悪者かよっ」
マイにはファンが大勢いるし、エレインは謎の外人風美人だ。
俺のみ、圧倒的に浮いている上に、見た目の凡人感が半端ないからな。
どうせ悪口言われるだろうとは思ったが、やっぱりか。げんなりした俺を、チュートリアルが慰めてくれた。
「男の子も同行していると知れば、気を揉む人もいるでしょう。本当は、ハヤトがメインで、私達は貴方に頼っているのも同然なんですが」
「マイやチュートリアルには助けられることも多かったし、そんなわけないだろ」
そんな俺をなぜかとっくりと見つめ、チュートリアルはいきなり思わぬ爆弾を落とした。
「時に――マイのことが好きなのですか?」
「なにを言い出す、なにをっ」
俺はついにアンパンを膝の上に置き、隣に座ったチュートリアルを見た。
「GMの仕事に、恋愛相談も加わったのか」
「いえぇええ、そういうわけじゃありませんが……まあ、雑談の一つですよ、ええ」
「なら、ノーコメント」
「エレインは?」
「エレインの場合、向こうが俺をナントモ思ってないだろうに」
「ところが、そうでもないようですよ?」
「なんでわかるんだ?」
気になって尋ねたが、チュートリアルはさりげなく無視した。
「話は変わりますが、たとえば私なんかどうです! こう見えて、かなり物わかりがよく、尽くすタイプだと自殺していますがっ」
「……自殺?」
「ああああっ、自殺じゃなく、自覚ですっ。緊張してトチりましたっ」
真っ赤になって首を振る。
いつもどこか妙だが、今日はかなり様子がおかしい。
「エレインが、あんたは俺に気がある的なジョークを飛ばしたが、あれってマジとか言い出すんじゃないだろうな?」
「――なっ」
絶句したまま口をパクパクさせていたが、やがて金髪を乱暴にかき上げ、チュートリアルは睨むように俺を見た。
「か、仮に彼女の見立てが本当だとしたら、ハヤトの中でなにか変わりますかっ」
「なんだその、誘導尋問みたいな質問……変わるというか、少なくとも単なる女神様じゃなく、普通の女の子として見るようになるかもな」
どうせからかわれてるのだろうが、それでも考えながら言ってやると、ふいにチュートリアルの背筋が伸びた。
「な、なるほど。それでは、私もそれなりに覚悟を決めて申し上げましょう。じ、実はですね、ここ最近の私は、ハヤトに対して」
「……ハヤトさんに対して?」
いつの間にかこっちへ出てきたマイが、目を細めてチュートリアルを見ていた。
「いっ!」
しかも、マイは妙な声を上げたチュートリアルの方へ歩み寄り、「買い物がしたいので、よろしくお願いします」と、半ば強引に手を取った。
「い、いえ、まだ私は話が――」
でもって、チビ女神様を引きずるようにして、二人で売店の方へ行ってしまうという……結局、なんだったんだ、チュートリアルの奴。
……俺はまたアンパンに戻り、マイ達もあの後で、エレインを加えて仲良くこの施設内のダンジョンに挑んでいたらしい。
チュートリアルまで同行したそうな。
そんな彼女達はまだしも、新たなステージを迎える最後の日、俺はとうとうキャンプ場所から出ずに終わった。
夜はぐっすり寝たから、それなりに体調は整ったと思うけど……当日まであっという間だったな。
いよいよ本番の朝が来た。




