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まさに一騎当千っ(ただし、自称)

「ああ、それからもう一つっ」


 俺が即、また訊こうとした途端、チュートリアルが思い出したように言う。


「このレベル割譲かつじょうシステムは、ハヤトが自分の伸びしろレベル分を譲ることを、心から認める必要がありますね。さもなきゃ、上がらないらしいです」


 マイとエレインが、悲壮な顔つきで仲良く顔を見合わせているが、いやちょっと待ってくれ。


「そりゃ俺だって、パーティーのみんなのために融通してあげたいけど、それすると、今度は俺のレベル上げが不可能になるんじゃ?」

「また忘れてますね?」


 チュートリアルがつくづく愉快そうに俺を見た。


「今の例はハヤトのレベル限界が100としましたが、実際は、あなたのレベルに上限はないのです。才能限界値が存在しないのですから。無限大からいくら引こうが、痛くも痒くもないと思いますよ」


「えぇえええええええっ」


 俺はチュートリアルに出会ってから、最大級の懐疑を込めて呻いた。

 なにしろ、自分のことなので信じられん度が半端ない。


「そんな美味い話、世の中にあるかぁ?」

「試してみて無理なら、諦めればいいだけでは?」


 首から下がぴっちりスーツのチュートリアルは、こともなげに言いやがる。

 そりゃまあ、試すぐらいは――

 そう思いかけて、俺がまたエレインとマイを見やると二人がなんとも切ない表情で俺を見つめていた。


 そ、その目つきやめてくれ。

 特にエレイン、俺を拝むなっ。




「お願いっ」


 内心の願いも空しく、エレインが両手を合わせ、いよいよ俺を拝む。


「助けてくれたら、全部終わった後、なんでも言うこときくわっ」

「おい、気安くそういうこと言うなって。俺だからいいけど、他の奴だと、『じゃあ、やらせろっ』とか無茶言われるからなっ」


 他人事ながら心配になったので注意してやると、はっとした顔をしたエレインは、俺をまじまじと見やり、バツが悪そうに言ってくれた。


「え、ええと……そっち方面は、ハグか手を握るくらいでどう?」


 ――願い事の割に、リターンがショボすぎっ。

 いや、元々そんなこと頼む気はなかったけど。


「んなこと頼まないから、気にするな。とにかく、やってみよう。もちろん、マイも限界が来た時は」

「……ハヤトさん」


 マイはさすがに拝みはしなかったが、俺のそばにきて、両手でそっとこっちの手を握ってくれた。


「生涯忘れませんから……」

「いいんだ。逆の立場なら、マイはなにも言わずに同じことしてくれるだろうし。マイのためなら、喜んで」

「ちょっと!」


 拝んでたエレインが、いきなり膨れた。


「なんでそんな対応に差が出るわけっ」





「あのぉおお」


 ふいにチュートリアルが口を挟んだ。

 俺達が注目すると、これまたバツが悪そうに「てへへ」と妙な笑い方をする。


「私も才能限界が来てレベルが停止したら、ぜひお願いしますね」

「一応はGMのくせに、あんたもかーーーいっ」


 思わず全力で突っ込んじまっただろうが!


「女神も限界が来るのかよっ」

「来ますとも。前にもそう言ったじゃないですか! 女神にすら、才能限界はあると」

「偉そうに言うな、偉そうにっ。それで、実際どこら辺が限界なのさっ」

「いえ、三桁以上ですから、まだだいぶ先ではありますが」


 注目してた俺達は、一斉に脱力した。


「なんだ、本気でめちゃくちゃ先じゃないか。そんな頃には、ゲーム終わってるわい」

「どうですかね……そう簡単に終わりそうにない気がしますが」


 不吉なことを言いやがった後、チュートリアルはにわかに含み笑いなど見せた。




「うふふふ。時に、あなた達――特にハヤトに、よいお知らせがあります」


「カップラーメンの種類でも増えたか?」

「違いますよっ。いえ、それも確かに増えてますが。――そうじゃなく、明日からの第三ステージに、心強い助っ人が加わるというお知らせですっ」


「いらないわよう、今更っ」


 俺より先にエレインが顔をしかめれば、マイも即座に追従した。


「わたし、人見知りする性格なので、今更増えるのはちょっと」


 ……アイドルとは思えぬことを言う。

 正直、俺も知らん奴が入ってくるのは嬉しくないんだが、チュートリアルは怒らなかった。


「その心配はありませんとも、ええ」


 なぜか悠然と売店の席を立ち、両手を腰に当てて、控え目な胸を張る。


「ともに戦闘に加わるのは、私ですからね! まさに一騎当千っ」


 鼻息も荒く宣言し、俺達は無言で顔を見合わせた。


 ……マジかよ。逆になんか不安なんだが。



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