一話
「蓮君、おはよう!」
笑顔で挨拶しながら、毎度、飛びついて来るのは、桜木真侑、保育園時代からの長い付き合い、いわゆる幼なじみ、というやつである。まあ、毎朝、飛びついて来る事になったのは、彼女の友達である菊池奈美氏の助言によるものらしい。彼女曰く、
「好きな男は、いつも掴まえて置かないと逃げちゃうぞ♪」
との事である。
桜木真侑は、黒髪を耳が隠れる位迄伸ばした、いわゆるかわいい系の顔立ちで、小柄で笑顔もかわいいという事で、ロリ○ン系・オ○ク系の男子のみならず大人に迄目をつけられ、付きまとわれ、が多く、僕は昔から用心棒をやっていた。
「真侑たん!」
と叫びながら近寄って手を引っ張って行こうとしたり、
「真侑たんは僕の物だ!」
と、僕を学校裏に呼び出し、集団で殴りかかって来たり、トラブルには事欠かなかった。
僕自身は、小さい頃から空手・剣道・柔道の道場に通っていたし、すごく身体に馴染むようで、めきめきと上達したので、相手にならなかった。前置き、長かったね……。
「おはよう、真侑」
少し小柄な僕よりも小柄な彼女は、小動物みたいにかわいらしい。
「はあ、蓮君の香りだ♪今日も1日幸せに過ごせそう」
「それは良かった」
ただ、少し変態な所もある。
「いつまでも、イチャイチャしてないで、学校行くよ、二人とも」
声を掛けて来たのは、件の菊池奈美氏だ。
「そうだね。蓮君、行こうよ♪」
「うん、行こうか」
僕達も学校に向かう。僕達はもう中学生だが、やはり、真侑は手を離さない訳で……。
「相変わらず、熱いわね……、妬けるわ」
呆れたように呟く、菊池氏……
「何言ってんの。菊池さんだって、この前……」
「うん! イケメンな男子と歩いてたよね?」
「そうだね。天は二物も三物も与えたか!?という、イケ面、成績優秀、スポーツ万能、の三拍子揃った高城悠哉君だったよね」
「うん、うん。腕を組んで……」
「わかった、わかった。あれは偶々よ」
途中で遮った菊池さん。と、まぁ、話している間に、学校に着いた。そして、玄関で靴を替え、教室に向かう……。
平和な日常は、容易に破壊される……。それは僕自身にとって当たり前に感じている事だったが、何故そう感じるのかは、この時点では判らなかった。