表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

都合のいいヒロインとはこれぞ、みたいなの書きたい

公証人の女、名前はキッカとか、そんなだった気がする。

あの時は目深のフードを被ってはいたものの、こぼれ出ていた薄紅の髪色は、この世界においても、ありふれたものではない。


「なんでお前がここにいるんだよ」


次に会ったら是非ともぶっ殺したかったところだが、未だに全身が気だるく、それどころではない。


「何言ってるんですか。むしろ、なんでわざわざ、あなたをここに居させてあげてるんですか、って話です」


思案するが、特に思い当たる節はない。


「内臓が目的なのか」


死にかけで、金目のものも所有していない俺を自宅に連れ込む目的など、かなり限られてくる。


「おぞましいこと言わないでください。だいたい、体関係の創造は、ここの支配者の得意分野ですから。大した価値にはなりませんよ」


そういえばそうだった。この世界に引きずり込まれた初日、2時間程度で終わった異世界研修。そのときに、支配者と自称するあの女が似たような事を言っていた。肉片の一欠でも残っていたら命の心配はいらないだとか。


「私があなたを助けた理由はただ一つで、あなたのギルドに可能性を感じたから。それに尽きます。情報を取り扱うギルド、発想としては存在してましたけど、わざわざ寿命を削ってまで実行に移した人はあなたが初めてなんです。大体のギルド創始者は自己顕示のための単純な冒険ギルドだとか、職人気質の方々が技術向上とかいう極めて自己中心的な職人ギルドを立てるくらいなもので、地味で小賢しいとおもわれがちな情報収集なんて言うのはどうしても見向きもされなくて、零細冒険者が地味に地味にじっくりと集めた極めて不確かな情報をギルド連合が収集するくらいのものでしたし、革命的なギルドを立ち上げてしまったわけですよあなたは!! もしこれがうまく行けば、迷宮街の探索効率も飛躍的に向上して」


「ひたすらに長えわ。話の3分の1も伝わらねえからな」


「私の純粋な思いを何だと思ってるんですか。じゃあ言いますけれど、一言でまとめますけれど、公証人ギルド抜けましたんで、あなたのギルドに入れてください!」


「ええと、無理」


「ええ!? なんでよ!?」



彼女の驚きは無理もない。実際、なんとも都合の良い話だ。性格には多少難があるにせよ、ギルド創始の初期段階で人手が手に入るのは非常にありがたい。

ぽっと出の、しかもドマイナージャンルのギルドだ。人が入ってくれるチャンスなど、もしかしたら今後もないかもしれない。


「残念ながら、人を雇えるだけの寿命が無い。誰かさんのせいでな」


「なんだ、そんな事ね。その誰かさんが、このギルドの契約を組んだんですよ。抜かりがあるとお思いで?」


「そういうことか。よくわからんけど、あんたを雇うだけの余力を、あの契約の中で組んでもらってたってことなんだな。だったら、是非ともお願いしたい!」


「へへへ。そんなの当たり前に決まってますって。なにせ、あと4分の1も寿命残ってるんですからね。その更に半分なんて、余裕余裕!」


「いや待て。それ余力残ってるとは言わないからな。」


雇うとはつまり、スキルを含めたギルドについて利用権限を付与する代わりに、ギルドの維持発展のために対象者、ここで言うとキッカの行動を制限する契約を指す。

で、円滑なギルド運営のためには当然、スキル利用が必須である。マスターである俺は利用の度にスキルに応じた寿命を消費しなければならない。ただし、ギルドメンバーを雇う場合、話は変わってくる。規定量、もしくは残りの寿命の半分を消費することで、スキルの利用権限をメンバーに貸与することができる。

そうすることで、ギルドの寿命ではなく、キッカ本人の寿命を消費してスキルを利用できるようになる。

面倒な発動権限付与手続きを踏む必要もなく、マスターの負担も減るという、本来であれば非常にありがたい申し出なのだが。


「いや、十分な余力です。むしろ、スキル権限の貸与なくして、どうやって勝ち上がっていく気なんですか。他に選択肢、あります?」


そう言われてしまうと痛い。

正直に言ってしまうと、ギルドの立ち上げにしたって、その場しのぎの勢いでやってしまったにすぎない。


「わかったよ。とりあえず、契約成立ってことで」


「では早速」


そう言って、キッカは横になっている俺の手首を取り、人差し指を口でくわえ込んだ。


「何してんの?」


はひはふ( かみます)


口内の生暖かい感触に、一瞬だけ心臓が高鳴ったが、次の瞬間の激痛でかき消された。




「契約って、意外と、アナログかつ迷信に塗れたものなんです。空気にも触れず、生の血液のほうが契約効率が良いとか悪いとか」


「どっちだよ」


「まあ、それはそれとして、早速活動開始なわけですけども、あなたの寿命って後どれくらいあるんです?」


キッカは今更ながら、最重要の懸案事項をぶち込んでくる。むしろ、聞かずによくもまあ人の寿命を弄んでくれたものだ。


「宣告によれば、1年と3ヶ月らしい」


「今が8分の1ですので、もともとは10年ってところですか。あなた、わりかし短命だったんですね」


「何計算だよそれは。元の寿命が1年5ヶ月だって。ってなると2ヶ月もないな」


「マジですか。それ、もう詰んでません?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ