三味線を弾く意味
不安。
正直、どんなコンクールの前日よりも緊張してる。
明日はついにお見世出しの日なのだ。
千紗ちゃんは、舞を踊る立ち方として、私は三味線を弾いて、歌を歌う地方としてデビューする。
「明日からうちらは千紗じゃなくて千晴、綺音ちゃんはあや乃として生きていくんだね」
千紗ちゃんのひとことに、じーん、とした。
「なんだか感慨深いよね。毎日毎日怒られたけど頑張ったよね、私たち」
そうだね、と頷き合う。
「うちね、お母さんが踊りの先生してたんだけど、疫病で死んじゃって、お家じゃもう踊りができなくなっちゃったから家を出てここに来たの。
みんなに反対され続けたけど、頑張ってよかった」
通りで、千紗ちゃんは目標がいつでも高かった。
「私のお母さんも先生してるよ、三味線の。
本当はずっとやめたかったけどこの街に来て、三味線がすごく好きになった」
こと乃さん姐さん、千紗ちゃん、そして政友さんに出会って。
たくさんのお客さんが私の三味線を褒めてくれて。
元気をもらったって言ってくれて。
三味線を弾く意味が、できた。
「いま、この国の中は攘夷だ何だで穏やかじゃないけど、そんな中で人を癒せるのってやっぱり芸術だと思うの。
うちね、仕込みさんの間辛いことばっかりだったけど綺音ちゃんとだから頑張れた。
これからもふたりでこの国じゅうを幸せにしよう」
千紗ちゃんと指切りげんまん。
タイムスリップをすることがなかったら出会えなかった。
こんな気持ちにも、優しさにも。
幕末の動乱を、私は今、緩やかに、生きている。