表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/47

政友さんは



翌日から稽古始まった。

三味線や唄はもちろん、生まれて初めて日本舞踊というものを習い始めた。

いくら演奏を担当する地方の芸妓とはいえ、踊れなければならないようだ。


ちなみに……。

「おいどが高い! もっと低く!」

お師匠さんが一番怖いのは、舞だ。

稽古のたびに怒られる。


「ただいま帰りました」

置屋に着くなり、

「お帰りやす。お稽古どないどした?」

政友さんが迎えてくれた。

「今日もお師匠さんに怒られました」

「期待されてる証拠や」

しょぼくれた私に、彼はやさしくそう声をかけると、頭をポンポン、二度撫でてくれた。

ふわりとした温もりに、心がほっとする。

小さい頃、だれかにこうしてもらったことがある。

(お母さんだ)

鼻の奥がツーンとした。

泣きそうだ。我慢しないと、面倒臭さがられてしまう。それに、お世話をしてもらっている政友さんの前で涙を流すなんて、申し訳ない。

上を向いた。涙が零れないように。そして、何度も瞬きをした。

そのとき。

「綺音はん、足元見てみ。足袋の上を毛虫が歩いてまっせ」

政友さんの声に驚いて、ぱっと下を向く。

しかし、見つめた先には毛虫なんていなかった。


「政友さん、毛虫なんていませんでしたよ」

すると、彼はくすくす笑った。

「うん、だって嘘やもん」

まるで、少年のように。


「無理やり、涙は堪えなくてええんやで」


ばれていた。泣きそうだったこと。

でも……

「なんか、涙、ひいちゃいました」

政友さんの言葉で、涙なんてどこかへいってしまった。

「ほんならよかった。笑ってた方が可愛いおす」

大人な表情に言葉が出なくなった。


「もう少ししたら千紗はんもこと乃さん姐さんも帰って来はるから、そしたら昼食にしまひょか。

それまでお部屋で休んどき」

言われるがままに、部屋へ戻った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ