自己紹介
「芸妓のこと乃どす。
なんでも聞いてな」
芸妓さんになる前には、必ず一人の芸妓さんと姉妹になる御盃を交わさなければならないのだけど、政友さんいわく、私は彼女にお姉さんになってもらうらしい。
「よろしくお願いします」
お辞儀したのだけど、
「これからは、『よろしゅうおたのもうします』どすえ」
注意された。
「はい!」
こんどは、
「『はい』やのうて『へえ』や」
政友さんから。
「へえ」
そのとき、ばたばたと足音が聞こえた。
「失礼します」
どうぞ、という政友さんの返事の後に、襖が開いた。
「遅うなってすんまへん! 道に迷ってしもうて……」
その女の子が頭をあげた時、目が合った。
「こと乃さん姐さん、こちらの方は」
不思議そうな目線を向けられる。
「自己紹介しい」
姐さんにそう言われ、挨拶をした。
「今日からこちらにお世話になります、篠原綺音どす。
よろしゅうお頼もうします」
たどたどしい私の京言葉に、みんな笑わずに頷いてくれる。
「うちは千紗どす。一昨日からここに寄せてもうてます。綺音ちゃん、よろしくね」
政友さんが言うに、彼女もまた、わたしと同じ仕込みさんだそうだ。
「うちもまだまだなんもわからへんさかい、一緒に頑張ろな」
フレンドリーな千紗ちゃんの微笑みに、心の奥からホッとした。