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覚悟



柚ちゃんが見世出しすると聞いたその晩、私はずっと考えていた。

私が姐になって、いいのかな。




「政友さん、すこしお話ししたいことがあります。よろしおすか」



政友さんが朝餉を食べ終わったタイミングを見計らって私は声をかけた。


「ええよ」


なんとなく意図を察したのか、みんながいる居間ではなくて政友さんの部屋で話すことになった。



今日はどうやら曇りみたいで、部屋の中がなんとなく薄暗い。

冷たい畳の上に正座して、なんとか口を開いた。


「どうして、政友さんはうちを柚ちゃんの姐にしはったんですか」


自分の声が思ったよりも尖って聞こえた。


「柚ちゃんは立方で出はるのにうちは地方でこれから先、舞の相談に乗れる自信はあらしまへん」


それに、私はいつまでここにいられるのかわからない。


「こんなこと言うたらあかんとは思いますけど、うちは柚ちゃんの義姉妹になるのは向いてへんような気がしてしまうんどす」



政友さんが一度ため息をつく。怖くて、顔を見られない。


「なんや」


思ったよりも声が優しい。


「あや乃、ただそれは不安なだけでっしゃろ」


なんだか、はっとした。


「誰だってこんな大役任されたら不安になるのは当たり前やろ。

ただ、分かって欲しいのはなんであや乃に決めたかや」


顔を上げる。理由を、私は知りたい。



「柚はもともとこの街に来とうなかったけど事情があってここへ来た。それはあや乃もおんなじやろ?三味線なんて嫌いやったけど生きていくために弾かなあかんから芸妓になるって決めたんやろ?」


「そうどす」


「うちには千晴もいてるけど、千晴は望んでこの世界にやって来た。柚が立方っていうことに関しては千晴の方が相応しいと思うかもしらんけど、同じ境遇の人にしか理解できひん気持ちはぎょうさんある。

そやからもしこの街に来とうて入門しはる子がこの先来たら、その時は千晴に引いてもらおうと思ってる」


窓から日差しが差し込む。部屋が急に明るくなる。雲は抜けたみたい。


「踊りのことでこれから先柚が悩んだ時はこの置屋には踊れる千晴も居るし、近所にはこと乃だって住んではる。

正直、技術に関して教えられる人はほんまにたくさんいてはる。そやからこそ、高梨柚っていう人間を精神面で支えてあげられるような人にあや乃にはなって欲しいんや」


私で、いいんだ。私じゃないと駄目なんだ。


柚ちゃんが頑張ってるのを見て嬉しい反面、言い表せないもやもやがあったのは、今まで生きて来て他人の人生を左右する役を任されたことなんてなかったから、不安だったのだ。


義姉妹の関係は、花街にいる限りいつまでも続く。ある意味では家族よりも深い絆で結ばれる。


「しっかりしよし。これからあや乃は柚乃にとって島原で一番信頼できて、尊敬できる存在になるんやろ」




覚悟が出来た。背筋が自然と伸びる。



「おおきに。頑張ります」




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