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ここで生きるためには



「ほな、弾いてもらいまひょか」

政友さんに、タイムスリップをしたということは伏せて、今に至るまでを説明した。帰る家が、ないということも。

すると、いきなり私が抱えて倒れていたという三味線をもってきたのだった。


「二世 杵屋勝五郎作曲の、『小鍛冶』を演奏します」

これは、刀鍛冶の三条小鍛冶宗近が、稲荷山の神の加護によって、名刀の子狐丸を鍛え上げたという伝説を基にした長唄だ。

三味線なんて、弾きたくない。


最後まで弾いてから、最初に言われたのは。

「三味線が、好きやないんやね」

ばれた。ばれてしまった。

「そやけど、あんさんの技術は大したもんや」

そういう風に言われることは慣れていない。


「もしも、帰る場所がなくてほんまに困ってはるんやったら、うちで働きまへんか」


それは、私にとって大きな提案だった。


「仕込みさん言うてな、見習いさんから始めてもらうんやけど、一年くらい修行したらお座敷で音楽を担当する"地方じかた"言う芸妓さんになってもらう。


どないどす?」


三味線なんて嫌いだし、できれば弾きたくないけれど、そんなわがままを言っていたら、ここで生きていくことはできない。

野垂死には嫌だから。


「よろしく、お願いします」


素直に頭を下げた。



それから、政友さんが彼の手元にあった三味線を取った。


その時、世界が揺れたような錯覚に陥った。

撥と糸と、それから長い指が鳴らす音が胴を通って、部屋に響く。

滑らかに生まれる柔らかい音が、黄昏時の空気に充満して、私は思わず頬をつねる。痛い。

こうでもしないと、夢なのか現実なのか、わからなくなってしまいそうなのだ。


一曲弾き終えて、彼がいう。



「人間は、夢がないと生きられないんや。ここで、あんさんも夢を見つけられるとええな」




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