平助過去篇
父親に連れられてはじめて政秋の道場に出稽古に行ったときのことだった。
「ちょっと来いよ」
声をかけて来たのは自分よりもずっと体の大きい先輩三人組。
すこし怖いけど、行くしかないとついて行く。
「お前、どこの誰なの?」
「えっと……」
六つの目が一気に自分を睨んでくるのが、恐ろしく怖くて、声がうまく出ない。
「早く答えろよ、チビ!」
「言葉もうまく喋れないやつはここにくる資格ねえんだぞ!」
三人組で一番背の高い男が木刀を振りかぶった。
自分は丸腰だ。対応できるわけがないから、ただ痛みに耐えようと思った。
–––––––––その時だった。
「資格がないのはどっちだよ」
後ろからすこし高い声が聞こえて来た。
振り返るとそこにいたのは一人の少年。たぶん、年は同じくらいだ。
「またお前か」
背の高い男は振りかぶってた木刀を収め、ため息をついた。
「おい、こいつが来たらめんどくせえ。戻ろうぜ」
そして怖い三人組は裏庭から去って行った。
「一番背高い奴いただろ、あいつ陣内って言うんだ。
いつも出稽古とか見学に来た自分より年下の人をいじめてる。気にしなくていいからな」
「助けてくれてありがとう」
ところで、と彼は付け加えた。
「俺、掛里政秋っていうんだ。君の名前は?」
心臓が、どきどきする。
「藤堂平助。平助ってよんで」
「よろしくな、平助」
黄昏時の金色の光を背に微笑んだ政秋は、なんだかとてつもなく逞しく見えて、その日から俺の憧れになったんだ。




