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過去と、それから




社務所のところで騒いでいる人たちの中で一番小さい人が政友さんの幼なじみの平助さんだと教えてくれた。



「こんなこと言うたらあかんのやろけど、今だに諦めきれてないんや」



「俺よりも弱かった奴が刀を持って戦えてるのに、なんで俺は……!

なんで俺はこんなところで置屋の主人なんてやってるんだって、悔しい。平助が、羨ましい」


初めて聞いた政友さんの京言葉じゃない声。心の奥を聞いた気がした。


「引き取って貰ったことには感謝してる。

だけどこんな風に思うなんて島原の人間として失格だろ」


"俺はいい主人なんかじゃないんだ"と政友さんが自嘲気味に笑う。


この人は一人でどんなに辛い思いをしてきたのだろう。

その苦しさはどれほどのものだったのだろう。


「あや乃としてじゃなくて綺音として話します」


外はだれが何を聞いているかわからない。こんなところで本音をぶちまけるのは芸妓としてよくないと思う。

だけど、ここで周りを気にして薄っぺらいことを言うのは人としてもっとよくないと思う。


「確かにその思いを島原の人間とした失格だって言う人もいるかもしれません。

でも、その思いは全然ダメなんかじゃないと思う。

だれだって夢の一つや二つ持ってるし、政友さん、言ってたじゃないですか。

『夢がないと人は生きられない』って」


島原に来たあの日、政友さんが私に言った言葉は彼自身へのものだったのではないだろうか。


「私、知らなかった。政友さんがこんなにも辛いことを経験してたって。だって、そんな姿見せないから」


政友さんは強くて、弱い。


「剣術への想いも全部含めて、私の知ってる政友さんが私にとってのいい主人、いや、人としての憧れです」


彼の目が見開いた。いつもならすぐに笑顔になって話し始めるこの人が、固まった。


にわかに風が吹く。花びらが舞う。遠く、高く、空へ。

吹き抜ける風と、春の匂い。



それから–––––––––––––


「ありがとう」


初めて見た、政友さんの右にだけ出来たえくぼ。



「来年の桜も、一緒に見ような」






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