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過去のお話
黄昏の忙しい人波で、何人かの見知った人とすれ違う。
「政秋くんこんにちは。おつかい?」
八百屋のおばさんが挨拶をしてくれた。
「まあそんなとこです」
田舎の、少し栄えている小さな町。
温かくて、橙色が似合うあの街が、なんだかんだ大好きだった。
それから俺は言われたとおりに路地へ入ったんだ。
ぱっと見渡してみてもそこには誰も立っていない。
"陣内を待っている"という人の姿の代わりにそこにあったのは––––––––––
紅くて、青白くて、恐る恐る触れてみると、冷たい……。
それがかつて人間であったモノだと理解するのに、たいした時間はかからなかった。
でも。
「政秋、お前、何やったんだ」
目の前に置かれた状況はよく理解できなかった。
何かに怯えるような父の目も、
憂の奥に喜びのようなものを含んだ陣内の瞳も、黄昏の金色の光も、
全部が灰色に見えたことは、よく覚えている。
あの瞬間の虚無感は十年以上たった今でも、俺の心の本質のようなところにまるで岩を覆う苔のようにこびりついて離れない。




