政友過去編
あれは、俺が室屋政友になる前。まだ掛里政秋だった、十四歳の夏のこと。確かに、憶えている。
「政秋に今日も勝てなかった! 強すぎる」
幼い頃からこの道場に出稽古にくる、藤堂平助。今やもはや泣く子も黙る新選組の組長だ。じつは昔は俺の方が強かったんだ。
「平助打ちが早くなった気がする。打たれないかひやひやしちゃった」
「ほんとう? 嬉しいなあ」
そして、平助は俺の大事な友達のひとり。
自分の父親が営むこの道場での毎日はなかなか楽しかったけれど。
「政秋はいいよな、館長先生の息子だから贔屓されてるんだろ!」
五歳ほど年上の陣内という男からのあたりはすごく強かった。
まあ、ほかにも道場の跡を継ぐことが決まってる俺を妬むような人たちは何人かいたわけだけど、この人は特にひどかったんだ。
ある日。
「なあ、政秋。ちょっと頼みがあるんだけど」
陣内に声をかけられる。正直鬱陶しいけれど無視するわけにはいかない。
「大通りの八百屋の裏にある路地に人を待たせてるんだ。
『陣内は来られなくなった』と伝えてきてくれないか」
さすがにそれは面倒くさい。
「自分で行ってくださいよ」
「いや、政秋が行ってくれ」
「いやです」
「お前とその人を合わせたいんだよ」
「……わかりました」
ここで、折れたのがいけなかった。
ここで、はっきりと断っていたら、俺の今は変わっていたのだろうか……。




