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本当の願い



二人並んで長椅子に腰掛けていると、社務所の前でで賑やかにしている人たちが見える。おみくじでも見せ合っているのだろうか。

その姿は春霞の中にすっかり溶け込んで、ぼんやりしているけど、楽しそうなのはなんとなくわかる。

「あの人たち、楽しそうですね」

少し途絶えた会話を埋めるべく、私は喋る。

「せやな。あんまり穏やかすぎて今まで起きた全部が嘘のように感じるわ」

舞い散る花びらも、眺める人たちの笑顔も、平成のそれとなんら変わらない。

ちょうど半年くらい前には薩摩と英国が戦争をしていて、歴史の通り時間が進めば今からだいたい2ヶ月後には池田屋事件が起きる……。

今この瞬間だって、時代は確かに移り変わっているのだ。


「ずっとこうして静かな時間が続けばええのにな」


政友さんは、春霞の向こうの賑やかな姿を見ながら呟いた。

その目はなぜか寂しそうに澄んでいる。


「あそこで楽しそうにしてはるおさむらいさんがたも、明日にはどないなるかわからへんなんて、なんて毎日なんやろ、と思います」


かなり平和ぼけしてた私にはかなり想像し難いことだった。



「そういう事を考えられるようになったからあんさんの音は良うなってるんやな」


政友さんが微笑む。

私はその笑顔をなんだか上目でしか見られなかった。


「それは、置屋の姐さんや千紗ちゃんがようしてくれはったり、お客さんとお話ししてくうちに三味線を好きになれたからで……」


全部は、室屋という置屋に拾ってもらえたから。


「ぜんぶ、政友さんが拾ってくれたおかげどす。

置屋の主人が政友さんやなかったらたぶんうちはまだ三味線を心を込めて弾けてない。

おおきに、ありがとうございます」


これが、今の私の精一杯だ。

それを聞いたら彼がゆっくりと口を開く。




「俺は置屋の主人なんかやってる人間やないんや。

ほんまは–––––––––––––」


私は思わず息を「すっ」と止める。






「剣で身をたてたかった」




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