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この気持ちの名前を
「ちょっと、寄り道していきまへんか」
政友さんのひとこと。
二人で神社に桜の花を見に行くことになった。
鳥居をくぐったその次の瞬間。
「わあ、綺麗」
私は息を飲んだ。
春の風に吹かれて舞う薄紅色の花びらを、わずかに傾き始めた陽の光が照らしている。
独特な草っぽい匂いと、土の香りが鼻腔をつく。
目の前に広がる情景に、かつて通った通学路の景色が重なった。
楽器を背負う高校生たち。
それぞれの夢を持っていた。
周りのみんなのその姿を見るのは、正直辛かった。
だって、私は三味線が嫌いで、夢なんてなかったから。
だけど今は、違う。
学校のみんなに負けないくらいの目標がある。
島原一の三味線弾きになること。そして、凝り固まったこの時代を生きる人たちを少しでも安らかな気持ちにしたい。
こんな気持ちになれたのは、私を拾ってくれた政友さんのおかげだ。
「政友さん、おおきに」
零れ桜の雨を背景に、いきなりどうした、と笑う彼。
––––––トクン
そんな音を、私は確かに聞いた。
一定のペースで刻まれるそれが何か理解するにはそう時間はかからなかった。
私は決して純情な乙女ではない。この気持ちの名前を知っている。




