彼の地
芸妓としての私もだいぶ板についてきた。
京都に来てから、三度目の春。
窓の外に、桜の木が見える。
ひらひらと舞う、薄紅色の花びらに、胸がぎゅう、っと掴まれているかのような気持ちになる。
駅から学校までの道の桜並木はすごく綺麗だった。
お花見シーズンになると、いろんな国からの観光客で賑わっていて、いつも私はこれから授業なのに、なんて羨ましがっていた。
そういえば沙織たちとその観光客の群れに混じって撮った自撮りが凄く盛れていたような気がする。
ラインのアイコンにしたら、いろんな人から詐欺だ、って言われたっけ。
–––––––ただただ、平成が懐かしい。
こちらの時代の布団にもすっかり慣れてはいるけれど、久しぶりに家のベッドで時間を気にせずに眠りたい。
置屋のまかないさんが作ってくれる和食も美味しいけれど、なんだか今日はお母さんのハンバーグが食べたい。
こうして芸妓として三味線を弾く毎日もなかなか充実してはいるけれど、
学校のみんなでくだらないことで笑って、
どうでもいいことで盛り上がって、
定期テストで一喜一憂する。
そんな毎日がすごくすごく恋しい。
いま、私が元いたところはどうなっているのだろう。
私が失踪したことになってて、家族とか先生とか友達とかが心配してたりするのかな。
それとも私は元からいなかったことになってるのかな。
みんなの気苦労を思うと、前者のが幾分かマシだけど、あの時代に私がいた印がどこにもなくなっているのだとしたら、どうしようもないくらい寂しい。
正直、この時代に来てからずっと一日一日を生きるのに必死でこんなことを考える暇なんてなかった。
私はなんのためにここに来たのだろう。
理由を見つけられないまま、今日も日が暮れて、町に光がともったら、私はお座敷に出るのだろう。
「入ってもよろしおすか」




