灼熱の義理の妹が青春している
とある地方の森の奥。そこにある洞窟を抜け、地中に潜り、さらに進んだ先にある炎と熱の湧き出るポイント。炎をまとった巨大なトカゲが這っている。
ある場所で、そのトカゲは人の言葉で話しかけた。
「妹よ。起きているか?」
「ええ、兄様……」
答えたのは人間の形をした者。そして、ベッドから身を起こす。
「具合は……その、どうなんだ……?」
「まったく忌々しい限りよ…… 右腕の傷が疼いて仕方ないわ……」
そう言って右腕をさする。
しかし、右腕には傷など無く、『灼熱』を意味する文字の入れ墨があるだけ。実に綺麗なものだった。
(また始まったか……)
トカゲは大きな口から溜息をついた。ばれないように息を調整して。
兄様と呼ばれたトカゲは炎の精霊の一族の一人。名前を『ロウーク』と言う。
ある日、森の中に捨てられた赤子を見つけ、不憫に思った彼は自分で育てることにしたのだ。その時は、それが良い事だと思っていた。その後にいろいろあったのだが、それはまたいずれ。
そして、妹として育った女の名は『リエータ』と言う。
人の身でありながら炎の精霊の力を宿し、立派に炎の精霊の一員として仕事をしている。そして、人間ならではの器用さで道具や武具の制作や研究なんかもやっている。
ある時、この地方の調査に来た『シルファ』と言う男が、この一帯を探り当てた。彼らも隠れているわけではないが、自分たちの存在が大きく知られるのはあまり好ましくないと判断した。そのため、使者としてリエータを送り、交渉してもらおうと考えたのだ。
何を思ったのか、送り込まれたリエータは、いきなりシルファに襲い掛かった。炎と人間の力を存分に発揮し武器や魔術に乗せて振るった。そして、見事に負けた。
彼女はそれ以来、シルファに復讐を誓い自らの力に磨きをかけている。その影響か、言動がややおかしくなっている。兄はそれをどう扱っていいかわからず、日々戸惑っているのだ。
「フフッ……特製の燃写眼を持たせた雀の配置も完了したわ。これであの男を探し当てるのも時間の問題よ」
「ああ……報酬を用意するために必死だったな……そのために、人里に出てまで仕事をこなすとは。あれほど人嫌いだったお前がなぁ……」
戦いの後、シルファはリエータにいくつか言葉を残した。敗れた後にうわごとで呟いていたのをロウークは記憶しており、後に本人に伝えていた。
お前にはちょっとしたコツが必要なんだろう
今ある力で出来るのは、自分に必要なものを見つけて探し出す Drag on
それと共に生きていく力の Slave on
その二つを合わせた『ドラグスレイヴ』というところじゃないか?
そんなことだった。
それから彼女は今まで以上に燃え上がった。ちなみに、起こされるときに右腕を握られたという話だが。
「そのことで知らせに来たんだ。雀たちから報告だ。これがそうらしい……」
ロウークは口から何かを吐き出した。包みが外れるとその中から紙のようなものが一枚。描かれているものが動いている。
リエータは飛びついた。
「つ、ついに……み、見つけた……」
そこに描かれているのは、かつて出会った男の姿。その隣には――
「お、女……? しかも二人……?」
ただでさえ熱くなっている所に、猛烈な熱気が降り注ぐ。その後火山が噴火するようなエネルギーでリエータは飛び出して行った。
ロウークはこの手の後処理に慣れてきたので、好きにさせることにした。
彼女たちは今日も、生命が脈打つ世界を行く。