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10

 川辺を涼しくなった風が吹き抜ける。

 線香はほとんど燃え尽き、真っ白な灰が残るばかりだ。

 その灰も、風にさらわれ水に流されていく。

 結局、彼女が夏を目にすることはなかった。

 夏を待つことのない雪桜みたいに散って、消えてしまった。

 鈴代は、医者として数えきれないほどの死に目に立ち合ってきた。

 それが初めてだったわけでもないし、最後だったわけでもない。

 長い、長い時のたった一瞬の出来事だ。そういう出会いは、いくつもある。

 ――けれど、思い出すたびに胸が痛くなるような出会いは、いくつもない。

「あ、いたいた! せんせぇーい!」

「輪廻さん、あんまり走らないでくださいって……聞いてるんすか!?」

「え?」

 振り向いた鈴代が見たのは、走ってくる弟子たちの姿だった。

 歓声と罵声とをあげて河原の斜面を滑ってきている。勢いが付きすぎて転がり落ちていると言うべきかもしれないが。甘斗は、なぜか手に団子を持っている。

そのままこちらへと走って……いや、ちょっと待って――

「うわああああ!?」

 そのまま止まれず、河原に三人で絡まって悲鳴とともに倒れ込んだ。

 ごん、と鈍い音がして、鈴代は少なくとも一瞬、目の前が真っ暗になった。

 まったくの静寂から、遠く声が聞こえた。

「……せい、先生? あ、生きてるみたい。よかった~」

「盆の入りに死ぬとか、本気で冗談にならないっすよ。それ」

 目を開くと輪廻が手を上下させ、後ろからは甘斗の呆れ声が聞こえた。

「う、うう。一瞬、川の向こうでお姉さんたちが手を振ってるのが見えた気がするんだけど……こんなところでどうしたの、二人とも」

 うめきながら、鈴代はよろよろと起き上る。後頭部が痛むので触れてみると、こぶができているようだった。

 すると、弟子たちは言いにくそうに互いの顔を見合わせた。

「え、えーっと。たまたまオレたちもこっちに用事があったんですよね?」

「そ、そうそう。別に先生のあとをついてきたわけじゃなくって、しかもその途中でお団子買ってたら見失ちゃったわけでもないよ?」

「って、団子のことは言うなっていったでしょーが、輪廻さん! 言い出したのオレじゃないし!」

「う……だって、だって甘ちゃんも『腹が減ったっすねー』って言ってたじゃない!」

「あー。わかったから、喧嘩はやめよ。二人とも」

 睨みあう二人を見て事情を察し、鈴代は苦笑した。

 最近はなぜか、時が流れるのが速くなった気がする。

 昨日は何があった、今日はこんなことがあったと教えてくれる人がいるからだろう。

 そのくせ、まるで数か月が数年も続いているような錯覚をすることもある。

 この日々が続けばいいのに、とも思うがそれはいけない。

 きっと明日も何かあるのだろう? ならば、流れ続けていかなければ。

 鈴代は立ち上がると二人の手を取った。

「さ、早く帰ってご飯を食べよう。あんまり遠くに来たから、途中で鰻でも食べてもいいかもしれないね。店が閉まらないうちに急ごう」

「おおー! 先生、ふとっぱら! よ、おだいじんさま!」

「輪廻……その言葉どこで覚えてきたの?」

「んーとね、猫町さんが言ってた」

「ちょっと、手つなぐとかやめてくださいよ先生。もう子供じゃないんですから」

 甘斗が照れたように文句を言うが、決して手を離しはしない。

 ひんやりとした風が、鈴代の耳元を吹き抜けて行った。

 どこかからか聞こえる笑い声を乗せて。

 ゆっくりと、けれど少しだけ急いで三人で歩いていく。

 それを見守るのは雪のように真っ白な月――



こんにちは、楽浪です。


ついにお盆、7月(現在の暦では8月)になってしまいました。

ちょっと前まで6月だと思っていたのになぁ……

実際の季節は梅雨の真っ最中です。

関係あるかはともかく、ベランダで育てているレモンバームに虫がたかっています。

ハーブって虫よけになるイメージあったんですけど、無惨に葉が食われています。

もっと頑張ろう、レモンバームよ。


作品には関係ないですけど、以上です。

次回もよろしくお願いします。楽浪でした。

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