夏の夜の夢の妖精
仄白い街頭を反射する君のなだらかな頰は陶磁器のように闇夜に浮かび上がっていた。妖精が仮初めに人間の姿へ変化した姿である。
君はどうしてこんな場所にいるのかい……?
僕は戸惑いを隠せない。
惹かれたのは必然的なことだった。
僕の左手は君の滑らかな髪に触れることができた。僕の右手は君の右手に触れることができた。
それは本当か?
僕と君は同じ音楽を聴くことができた。僕と君は同じ絵を見ることができた。
それは本当か?
僕らは実体として存在していた。存在することを存在していないと定義することは不可能である。在る、とは全てを超越する概念である。それはまた全てのものに付加されるが故に概念。それは絶対的なもの。アリストテレスやハイデガーもぶち当たった嵩高な壁。
僕らは個として存在する。故に僕らの世界内存在の意義は異なる。互いに喚き交わし多様につきまとう世界の感受方法は僕と君で違う。
あの時の僕と君は同じ空間にいたのだろうか……?
君の流した涙や独白を聞いたと思えたのは僕のパラレルワールドの事象であった可能性だってある。
あれはきっと、夏の夜の夢であったに違いないと思える日がある。
それは今日みたいな日だ。
僕の反芻される記憶の中では永遠の命を与えられる。
翼だって授けられる。
君は永遠に妖精のままでいておくれ。
触れられる距離にいて、それでもなお天文学的距離にいるとすら思われる君を遠望できるだけで充分なのだ。
夏の夜の夢の妖精は、僕が、……。




