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最後の夜
二人ともなかなか寝付くことができず、夜の散歩に出掛けることにした。
散歩、と言っても城の庭で、赤雪姫が昼間に楽しそうに花摘みをしていた所だ。
花たちは、少し沈んでいるようだった。
足元にはうっすらと影が伸びていた。
狩人は赤雪姫に歩幅を合わせて歩いた。
会話は無かった。ただ、黙って歩いていた。
狩人は赤雪姫が見た幻覚のことを思い出していた。
“火だるまの騎士が剣を向けた”
その時、周りには誰もいなかったのに……。
狩人は不思議に思っていた。
赤雪姫は何も考えることなく、小さく歩いているように見えた。……いや、もしかしたら、様々なことを考えているために自然と歩幅が小さくなっているのかもしれない。
「……手、つなごう」
赤雪姫の小さな願いを、狩人の大きな右手が叶えた。