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狩人の話
その日まで、変わらない平和な毎日を過ごしていた。
その日までは。
事件が起こる前日、赤雪姫は幻覚を見た。
落ち着きを取り戻した赤雪姫に、狩人は何を見たのかと尋ねた。
「火だるまの騎士が剣を向けた」
と答えた。
泣きじゃくる赤雪姫を狩人は優しく抱きしめた。
身体は、震えていた。
夜に、
「月を見たい」
と言い出した赤雪姫は、狩人と共に城のてっぺんに上った。
美しい満月の夜だった。
「きれいだね」
狩人が話しかけた。赤雪姫は月に顔を向けたままだ。
「わたしはここでお月様を見てる、狩人さんも一緒に見てる。魔女さんも、見てる」
赤雪姫のまばたき一つしない目からは、いつの間にか涙が溢れていた。
「お父さんもこの月を見てる、妹も見てる。お母さんも……」
「……きっと、きっと、どこかで見てるよね!」
一生懸命に笑おうとする赤雪姫に、狩人は頷くことしか出来なかった。