北の海賊・東の姫君 其の三
北の海賊・東の姫君 其の三
「なぜ、海に身を投げたりした?」
少女は唇を噛んだ。
「母が亡くなって、私は父に引き取られた。だが、妻の手前もあり、私は厄介者だった。それで私は嫁に出されることになった。小金を持っている領主の後妻だ」
レオンの胸がずきりと痛んだ。
「お前は、その男が好きなのか」
思わず声が尖る。
「まさか」
少女はふっと笑った。
「父より年上で、妾が6人いる。たまたまうちの屋敷に所用があって訪ねてきたときに私を見かけて、父にその話を持ちかけたらしい。父にとっては好都合だ、すぐに話しがまとまり、豊富な支度金と引き換えにそこへ向かう途中だった。海賊の襲撃で見張りが逃げ出したので、やっと外に出られたが、私には行き場所などないと気づいた、それで・・・」
「ここにいろ!」
少女はレオンを見上げた。不思議そうな表情だが、不愉快そうではない。
「ここにいて、俺の妻になれ」
彼女はくすっと笑った。
「酔狂な、私が欲しければ、抱けばよかろう。飽きれば海に捨てるなり、どこかへ売り飛ばすなり、好きにすればいい」
「そんなことはしない!」
レオンの口調の激しさに、驚いたように少女はレオンを見上げた。
「咲耶・・・」
レオンは少女の名を呼んだ。
どこにでもありそうな「エリザベート」という名より、「咲耶」という神秘的な名のほうが、この少女に相応しい。
「私をそう呼んでくれるのか?」
少女の問いにレオンは頷く。
「エリザベートはさっき海に落ちて死んだ。ここにいるのは咲耶だ。東の果て黄金の国から来た」
レオンは咲耶の顔を両手で包み、そっと唇を重ねる。
彼女は一瞬目を見開いたが、瞳を閉じてレオンの口付けを受け入れた。
唇を離すと咲耶は潤んだ瞳でレオンを見つめていた。本能的に押し倒したくなってしまうが、レオンはその衝動に耐え、立ち上がった。
咲耶が欲しい、どうしても欲しい。だが、体だけが欲しいわけではない。それをなんとかしてわかって欲しかった。
レオンは、引き出しから何かを取り出すと、そっと咲耶の掌に乗せた。
レオンが咲耶に渡したものとは?
次回、最終回です。