北の海賊・東の姫君 其の一
20世紀初頭、人類が移動の手段として翼を手に入れるまで、人々にとって異国への入り口は海であった。
大海原は人々をまだ見ぬ世界へと誘い、憧れをかきたてた。
大航海時代、ヨーロッパは黒死の病と魔女狩りによって塗りつぶされた暗黒の中世を抜け出し、航海技術の飛躍的な発展によって、世界中の海を制そうとしていた。
ヨーロッパが勃興から繁栄へと向かう時代。
新世界へ、富と覇権を求め、欧州各国が大海原へと乗り出すなか、その富を狙う海賊たちも跋扈する。
ヨーロッパ北部、欧州大陸本土とスカンジナビア半島に囲まれた美しい内海、バルト海。
そこに一際若く美しい青年が首領を務める海賊の一団があった。
その鮮やかな手口、また人身売買や陵辱、虐殺などの非道な振る舞いは決してしないこと、そして端麗な容姿から、人々は彼のことを「東海の海賊王子」と呼んだ。
北の海賊・東の姫君 其の一
「標的だ・・・」
広い海原を見つめ、レオンは呟いた。
水平線の彼方にはまだ、何も見えない。
だが、レオンは確信していた。この海の向こうから、すごいお宝がやってくる。
未だかつてこの勘が外れたことはない。それが、このまだ年若い青年を海賊の長たらしめている所以でもある。
ほどなく、彼の言葉を裏付けるかのように、一隻の船が現れた。
「行くぞ!」
レオンの声とともに、海賊たちは、次々と標的となった船に飛び移る。うろたえ騒ぐ人々をかき分け、彼らは船倉へ向かった。
無益な殺生はしない、狙うのは積荷だけ、水や食料には手をつけない、それがレオンとその仲間たちの矜持だった。
今回は大した抵抗もなく、あっけないほど簡単に襲撃は終った。まずまずの収獲といえるが、思ったほどではない。
勘が狂ったかな、とレオンが思っていた時。
船室から一人の少女が現れた。深紅のドレスを身に纏ったその少女に、レオンの目は釘付けになった。
(見つけた・・・)
思わず心の中で呟く。
漆黒の髪が風になびいた。しなやかなその髪が陽をあびてきらきらと輝く。今まで、数々の美女と浮名を流してきたレオンだったが、この娘はこれまで見たこともないほど魅力的だった。
この船で、いやこの世で最も美しく価値の高いもの。それはまさしくこの少女に他ならない。
レオンの心が揺れた。
略奪するのは積荷だけ、決して無抵抗の人間を傷つけたり攫ったりはしない。
決して・・・。
だが、そんな彼の心に「迷い」が生じていた。
この少女が欲しい、このまま攫って自分のものにしてしまいたい。
生まれて初めてそう思った。
だが、それをすれば、これまで彼を支えてきた海賊としての誇りを捨てることになる。
そして、それは、彼を信じてついてきてくれた仲間たちを裏切ることでもあった。
そんなことは絶対にできない。
けれど、どうしてもこの少女が欲しい。諦めてこの場を去ることなど到底できそうもない。
レオンは迷い、少女を見つめたまま甲板に立ち尽くしていた。
非常に恥ずかしいです。特に序文が大仰で・・・。
でも、いきなり話をはじめるとなんのことかわからないだろうし。
ええ、タイトルもベタですよね。
でもまあ、よろしかったらまた読んでやってください。