希少な竜の卵を貰ったので、伝説の竜騎士になる人生設計を始めました
【第20作目】冷蔵庫を開け卵を手に取った時に思いつきました。
切れ目の良い作数ではあるのですが、特別張り切る訳でもなく通常運転で書きました。
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目を開けると、そこは見知らぬ草原だった。
空は青く、風は心地よい。どこまでも緑が続き、その中を一本の街道が伸びている。
異世界だ。
なぜ分かるかと言えば、死んだからである。 そして死んだ後、自称神様と会ったからだ。
神様は確かに言った。
『能力は授けてやろう』
期待した。
ものすごく期待した。
そして授かった能力は。
『この世界の会話能力です』
だった。
「地味すぎるだろ!!」
思い出して叫ぶ。
草原に虚しく響いた。
まあいい。
言葉が通じるだけでも生存率は大きく違う。
そう考え、まずは情報収集のため街道を歩き始めた。
すると間もなく、人の争う声が聞こえてきた。
「金を出せ!」
「や、やめてください!」
街道脇で青年が短剣を持った男に絡まれていた。
盗賊である。
異世界初心者にも優しい説明付きイベントの様だった。
「おい!」
声をかける。
盗賊が振り向いた。
「なんだテメェ」
「その人を離せ」
正義感がなかったわけではない。
だが現地人から情報を得たかったのも事実だ。
助ければ好感度が上がる。
RPGの基本である。
しかし次の瞬間。
背後から腕が回された。
「今だ!」
「うっ…!」
「ひっかかったな!」
「仲間がいたのか!?」
だが慌てない。
現代日本で習っていた合気道がある。
体を捻る。
重心を崩す。
「よっと」
「えっ?」
盗賊が飛んだ。
どさっ。
さらに極める。
ごきり。
「ぎゃああああぁぁ!!」
「悪い。肩外れたかも」
盗賊は涙目になった。
もう一人の顔も真っ青である。
「ば、化け物だ!」
「逃げろぉ!」
二人は全力で逃げ去った。
肩が外れた方まで元気に走っていた。
人間、危機になると強い。
助けられた青年が深々と頭を下げる。
「ありがとうございました!」
「気にしないでください。それより少し道を教えてもらえませんか?」
「もちろんです!」
青年は気さくな人物だった。
話によれば、街から山村の実家へ帰る途中らしい。
母親が病気になったため急いでいるという。
「なら早く帰らないと」
「そうなんですが、この子を酷使するわけにもいかなくて」
青年が撫でた先を見る。
そこには大きなトカゲのような生き物がいた。
「それは?」
「走竜です」
「走竜?」
「移動用です」
さらりと言った。
まるでバイクを指差すような口調だった。
色々と教わり、大きな町への道も聞くことができた。
そして別れ際。
青年が荷物の中をごそごそ探り始めた。
「助けていただいたお礼です」
差し出されたのは卵だった。
ラグビーボールほどの大きさ。
側面には帯のような模様がぐるりと一周している。
「竜の卵です」
「えっ」
「希少な竜ですよ」
心臓が跳ねた。
希少。 その単語が脳を直撃した。
「本当は二つあるんですが、一つは母に渡したいので」
「いやいやいや、そんな高そうなもの!」
「命の恩人ですから」
結局押し切られた。
卵はリュックの中へ収まった。
そして青年と別れた瞬間。
妄想が始まった。
「希少種……」
歩きながら呟く。
希少種である。
普通じゃない。
つまりレア。
つまり強い。
まず頭に浮かんだのは漆黒の飛竜だった。
全長5m。
鋼のような鱗。
翼を一振りすれば嵐が巻き起こる。
その背に自分が乗る。
町へ降り立つ。
『伝説の黒竜だ!』
『あり得ない!』
『あの青年はいったい何者なんだ!?』
群衆がざわめく。
悪くない。
かなり悪くない。
「あり得るな」
頷く。
希少種なのだから。
十分あり得る。
さらに街道を進む。
空には飛竜が飛んでいた。
人を乗せ、小型飛行機のように移動している。
荷車を引く運竜もいた。
馬やロバの代わりだろうか。
畑では牛の代わりにどっしりした耕竜が鋤を引いていた。
どこを見ても竜。
竜。
竜。
竜。
この国の社会は竜で回っていた。
木陰で休む旅人とも話をした。
「この国は竜を使うのが盛んでな」
「卵も売ったりするんですか?」
「するする」
「雛も?」
「もちろん」
「成獣も?」
「売るぞ」
完全に産業だった。
「下は農家から果ては王族までも竜を使う」
旅人は笑う。
リュックを見た。
そこには希少な竜の卵。
未来の相棒。
そして自分の未来。
「もしかして人生変わるんじゃないか?」
妄想が加速した。
次は黄金の神竜だった。
卵から神々しい光を放ちながら誕生する。
周囲の竜たちがひれ伏す。
王城が騒然となる。
『神竜が現れた!』
『竜王の再来だ!』
『ぜひ王国をお救いください!』
そして王様。
『そなたに爵位を授けよう』
貴族になる。
屋敷を建てる。
従者を雇う。
馬車ではなく飛竜で移動する。
「ふふふ」
笑みが漏れた。
通行人がちょっと距離を取った。
◇ ◇ ◇
夜。
焚き火の前で卵を取り出す。
「そろそろ出てこないか?」
反応なし。
「黒竜か?」
反応なし。
「神竜か?」
反応なし。
「王竜か?」
反応なし。
「伝説の存在か?」
反応なし。
焦らすタイプらしい。
特にこの卵に書かれている模様、大物の風格がある。
「父さんだぞー」
反応なし。
少し寂しかった。
◇ ◇ ◇
十日後。
卵は孵らなかった。
しかし妄想だけは立派に育った。
竜騎士団長。
伯爵。
世界的冒険者。
竜牧場経営者。
空輸会社の社長。
ドラゴンレース王。
人生設計はほぼ完成していた。
でも卵はまだ孵っていなかった。
◇ ◇ ◇
やがて大きな町へ到着する。
町を散策しながら考えた。
「もしかして、竜の卵って数年単位で孵化までに時間がかかるのでは?」
一抹の不安に襲われた。
やはり、換金し確実にお金にしよう。
そう思い、小さな商会へ入った。
「買い取りをお願いしたいんですが」
リュックをテーブルへ置く。
リュックの口から覗く卵の柄を見るなり、商人の顔色が変わった。
「なっ!?」
「え?」
「どこで手に入れた!?」
怖い。
めちゃくちゃ怖い。
盗品を疑われたのかと思い、事情を細かく説明する。
商人は慎重に卵を取り出した。
宝石でも扱うような手つきだ。
勝った。
これは高額査定確定である。
金貨100枚。
いや1000枚か。
伝説竜の卵ならもっとかもしれない。
商人は卵を観察し続けた。
そして帯状の模様を見たまま固まる。
「……」
「どうでした?」
「買い取れん」
「は?」
「買い取れない」
「なんでですか!?」
あの周囲に書かれていた模様、もしかして何かの封印だったのか。
災厄竜なのか。
世界滅亡級なのか。
だから扱えないのか。
自分は詰め寄った。
「納得できません!」
商人は呆れ顔になる。
「お前さん、文字読めないだろ」
「文字?」
「この帯だよ」
模様じゃなかった。
文字だった。
「読めないです……」
「だろうな」
商人は大きなため息をつく。
「これはな」
一拍置く。
「ゆで卵だ」
「……は?」
「竜のゆで卵」
頭が止まった。
「高級食材だ」
「え?」
「味も栄養も最高の贅沢品だぞ。金貨30枚は固い」
「金貨30枚!?」
「だった」
「だった?」
「賞味期限切れだ」
店主は卵の模様の部分を指さした
「取れた場所・取れた日にち・調理された日にち・そして賞味期限だ」
世界が終わった。
黒竜。
神竜。
王竜。
爵位。
大富豪。
竜騎士団長。
全部消えた。
残ったのは。
賞味期限切れの。
高級ゆで卵だった。
「ちなみに」
商人が言った。
「助けた相手から貰ったんだよな?」
「はい……」
「そりゃ納得だ」
「何がです?」
「病気の母親への土産だったんだろ」
「……え?」
「栄養価の高い高級食材だからな」
嫌な汗が流れる。
「二個あったんだろ?」
「ありました」
「一個は母親用」
「はい」
「もう一個はたぶんその青年が食べる分」
「……え?」
「だから一個くれたんだ」
脳内で何かが崩れ落ちた。
あの時。
『希少な竜の卵です』
と聞いた。
だが青年は。
別に。
ドラゴンが孵る卵とは一言も言っていなかった。
希少な竜の。
ゆで卵だったのである。
商人が首をかしげる。
「むしろ何だと思ってたんだ?」
「孵るものかと」
「ゆで卵だぞ」
「相棒になるかと」
「ゆで卵だぞ」
「人生逆転かと」
「ゆで卵だぞ」
「伝説竜かと」
「ゆで卵だぞ」
無慈悲だった。
「ははははは!!」
ついに商人が腹を抱えて笑い出した。
「お前さん、ゆで卵を孵そうとしてたのか!」
「やめてください」
「十日間も!?」
「やめてください」
「金貨30枚を腐らせたのか!?」
「やめてください!」
「しかも父さんだぞーって話しかけたのだろ!?」
「なぜ知ってる!?」
「顔見れば分かるわ!」
商会中に笑い声が響く。
俺は机に突っ伏した。
◇ ◇ ◇
後日。
文字を読めるようになるため学校へ通い始めた。
だがもう遅かった。
商人の笑い話は町中へ広がっていた。
酒場へ行く。
「父さんだぞー!」
と誰かが叫ぶ。
市場へ行く。
「お、ゆで卵のあんちゃん!」
と声を掛けられる。
子供たちは腹を抱えて笑う。
「ドラゴン産まれたー?」
「まだ卵あったら俺も育てたい!」
「ゆで卵で!」
やめてほしい。
本当にやめてほしい。
異世界転生後の第一歩で。
自分は英雄でも竜騎士でもなく。
町の笑い者になった。
その日、神様へ心から思った。
異世界言語を話せる能力はありがたい。
本当にありがたい。
でも。
文字を読む能力もセットで付けてほしかった。
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今回のお話は、卵の天辺に印字されている賞味期限が発想の原点 だよ。
(ブルーイ口調?あれ、ビンゴの方だったっけ?)
もしよければ、以前に書いた作品も読んでみてください。どれも5分程度で読めるようにしています。




