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【短編小説】niboshi

掲載日:2025/12/17

「落ちましたよ」

 労働者風の男がおれに声をかけた。

 手には棘をひとつ持っている。

「ありがとう、助かるよ」

 礼を言って受け取ると、男は軽い会釈をして去っていった。


 靴についていた棘がひとつ取れていた。

 高級ブランドにしては作りが甘く、これで棘が落ちるのは3度目になる。

 だがおれの靴に限った話ではない。

 おれの他にもこうした靴を履いている人間を見た事があるし、彼らの靴も大抵は棘がいくつか落ちていた。

 逆に考えれば、こうして落ちた棘を集めて革靴に取り付けておれたちの履いている様な靴を作っている人間もいるのかも知れない。

 むかしで言うと、駅のゴミ箱から雑誌を拾い集めていたタイプのアナーキストたちってことだ。


 いまの世界はそんな感じになっている。

 ダウンコートから抜けた羽毛を集めて作った羽毛布団だとか、落ちている煙草を拾い集めて作ったオリジナルのブレンド煙草などが存在しているし、それらが当たり前に消費されている。

「むかし、アフリカ系アメリカ人が新品の帽子についていたシールを剥がさない風習があったと聞きます」

 不揃いの目をした女が言う。

「確かにな、新品であることに意味があった時代だ」

 いまだってどこかではそうかも知れない。

 だが新品なのが当たり前の世界では、新品である事に意味はない。

 おれたちが持っているとしたら、それは盗品か模造品ってことになる。

「その靴も?」

「そうかもな」

 割れた窓を寄せ集めて作られたステンドグラスの向こうを走っている車やバイクもそうだ。


 おれのバイクもそうだ。

 実際に目の前の駐輪場でノコギリを持った老人が違法駐車のバイクをバラしてたし、バラしたバイクのパーツを適当に組み立てのがジジイスペシャル265号、おれのバイクだ。

 老人の工具も色んな工事現場から拾ったものだろうし、老人の軍手は左右で違っている。軍手なんざ道端にたくさんあるからな。



 かくいうおれもそこら辺に落ちている人間を寄せ集めて作った人間だ。

「だからおれが落としたのが靴の棘でよかったと思ってるよ」

 女が曖昧に頷く。

 おれはその女の頭を撫でる。

 おれも女も両手足の長さはバラバラだ。

 だから女の目が左右で違うことくらいなんとも思わない。

 皮膚に至っては何がなんだか分からない迷彩模様になっている。

 歯もジルコニアだとか石膏だとかが混在している。


 そんなもんだ。



 これでもマシな方だ。

 金が無いと死んだ老人からしかパーツを貰えなくなる。

 老人のパーツはすぐに駄目になるから定期的に買い替える事になる。

 貧困のスパイラルだ。

 良いパーツなんて買えない、だから余計に無駄な金がかかる。

 貧困家庭ではハタチそこそこで脳味噌以外は全部老人、なんて言うのも少なからず存在する。

 そうやって生きてりゃ、一発逆転の夢から醒めることはない。



 持続可能性社会。

 地球上に存在する一定の人類だとか太陽系に存在する一定の生命、宇宙に存在するそれらを持続可能な状態にしていく。

 一定数存在する人類を使いまわしていく。

 温故知新ってやつか?

 わかりゃしねぇ。

 血統書付きの純血種なんてのは存在しないか、居ても博物館で不自由な生活を余儀なくされているんだろう。

 子供の頃に純血種が発見されたとニュースで見た事がある。

 その後どうなったかは知らない。



 もっと昔は博物館で生活する純血種を見学するツアーなんてのもあったらしいが、減少の一途を辿ってしまい成り立たなくなったと聞いた。

 純血種は繁殖が難しいらしい。

 

 

「わたしたちは、いつまでこうしていられるのかな?」

「さぁな、パーツを買い替えられなくなったら終わりになるみたいだけど」

 ブラックホールに放り込んだものがどこから出てくるのかわからないが、とりあえず核廃棄物とかを入れたらいいんじゃないだろうか。

 そのうちブラックホール発電とかできる時代になると良いな。

 あの中に惑星を放り込んだらどこかから同じ質量の何かが出てくるんだろうか。


「勉強は大事だな」

「え?」

 パチンコだとか肉陰だとかにも何かを入れると別のものが出てくる。

 そういうものだ。

 ただ新しいものは出てこない。

「鳥居をくぐって出たら別の人間、ってことだよ」

「そっか」

 眠って目覚めたら別の人間。

 そういうものだ。

 何かって?もう厭になってきているんだ。穴があったら入りたい。

「挿入れても何にもでてこないよ」

「おれのからもな」

 股間からポトリとパーツが落ちた。

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