94.犬にはエサを ◆ 淡路島翠 ◆
警護員目線の話となります。
何と言う不覚、あの腐れ警部が内通者だったとは、目の前でマル対を拉致されると言う大失態。
そのまま放っておかれるか、処理されると思っていたのに、わたしまで担いで連れて来るとは、奴らの目的は? そもそも何者、公安からまわって来た資料を頭のファイル帳で検索してみる。
最近動きが活発化している懐古主義者の一派か、それとも海外の勢力だろうか。
金属製の重いドアが開き、30前後の女が三人入って来た。
「ほら、権力の犬、エサの時間だぞ」
一番後ろの女が、厚さが指一本くらいありそうな皿を渡す。
“今、権力の犬って言ったわね、と言う事は海外勢力の可能性は低いわね”
「どうした、毒なんて入っていないぞ、安心して食え」
「そうね、殺すなら幾らでもチャンスはあったわよね、美味しく頂かせてもらうわ」
「食べながら聞け、助けは来ない、江田島警部を見ただろう、我々の仲間は警察の上層部に食い込んでいる、今頃捜索隊は全然違う場所を探しているよ」
「わたしみたいな平巡査なんて目じゃなくて、男性警備の江田島課長よりも上のレベルにまで食い込んでいると言う事かしら?」
「そうだ、男性警備の江田島課長なんて、下っ端の部類だ、当然警察の情報なんて筒抜けだぞ、淡路島巡査」
あら、意外と簡単に引っかかったわね、江田島は係長よ、わたしの階級は巡査部長だし、男性“警備”って何よ、“警護”でしょ、だけどここは相手の情報を引き出すところよ。
「そんなに上の人達まで入り込んでいるのなら、わたしみたいな平巡査は必要ないじゃないかしら?」
「そう言うな、わざわざ重いお前を担いで来たんだ、お前は荒川カイトの信頼が厚い、我々の仲間になれ。
おいおい、そんな怖い目で睨むな、悪い話じゃないぞ、 まぁ、仲間になれと言って素直に聞く様な奴じゃない事は分かっている、だが我々の主張を聞くくらいは良いだろう、淡路島巡査」
「言いたいだけ言いなさいよ」
「お前達の警備対象はシンフォニア高校の生徒だな、どうしてシンフォニア高校があるのか、考えた事はあるか?」
「少しでも男性に接する場を作る為よ」
「さすがは男性警備員らしい模範解答だな、だが本当は別のところに有るんだ。
慰撫工作と言えば分かるかな」
「 …… 」
「スタリオン学園では腐ったオス共が女を動物以下の扱いにしているんだ、同性として思うところがあるんじゃないかい」
「 …… 」
「同じ女として、そんなワガママな連中に多額の税金をつぎ込む事に疑問に思った事くらいあるだろう、そして男達に対する憎しみの感情も。
そんな感情を和らげるためにシンフォニア高校があるんだよ」
「スタリオンの男性が攻撃的になるのは勃起をする為よ、男は女性に対して攻撃的にならないと役に立たない、授業で習ったでしょ」
「その授業が間違っていたとしたらどうなんだ、荒川カイトみたいに」
「一定数がいれば突然変異は必ず出て来るでしょ、特異な例を一般化するのはどうかしら?」
「そもそも、前提条件が違っていたとしたらどうなんだ……」
それから奴らは今の男がいかにワガママで、女性がどれだけ苦労しているかを延々と話した、反論をすると、数の力で押し切り、こちらが疲れるのを待つ、洗脳工作の基本ね。
時計は取りあげられたから時間は分からないけど、奴らの洗脳工作は深夜まで続いたわ。
頭がフラフラだけど、考えを整理しないと、まずあいつらは懐古主義者、男と女は対等だと言う主張だから間違いない。
懐古主義者は警察の上層部に食い込んでいる、これはウソ、それだったらわたしを取り込むメリットなんてないしね。
何よりも所属や階級があやふや、これはどう言う事かしら? 江田島が内通者だとしても、自分の役職を間違えるなんておかしいわよね。
視点を変えて考えてみよう、わたしが懐古主義者だったらどうするか、メンバー全員の意思統一は大切だけど、一人が逮捕されたら芋ツル式に組織が潰される。
小さな細胞に分けて、横の連絡を無くして、上から必要な情報だけを与えるのが合理的よね。
そうだとしても階級を間違えるものなの? 情報が古いのか、それとも情報担当者が警察の内部に精通していないのか……
懐古主義者達の情報収集はザルよ、意外に早く応援が来るかもしれないわ。
もっとも救出されても、わたしは男性警護の任を解かれるわね。
警察なんて所詮は官僚組織、減点方で人事を評価していくのよ、一度でも失敗したら次は無いわ。
次は所轄の地域課とかかしら。




