90.宿泊訓練
今日は放課後の室内部活は無し、マネージャーの万世橋さんや代理店の岡三さん達とスケジュールの調整。
芸能人になると表の芸能活動以外に、打ち合わせや調整で時間をとられる。
今日は川講書店の担当西京さんも同席、写真集の打ちあわせだよ。
代理店の岡三さんが出版スケジュールを説明している。
「……最初に小集館さんが写真集を出版いたします、これは部活系の写真を中心にまとめますが、画角に女性は一切写らない本をご想像してください。
その二週間後に講英社が写真集を出します、こちらはプールサイドの写真が中心となり、ビキニの女性もたくさん出しますが、顔は写さない方向で」
「それは女性とデートしていると言う設定でしょうか?」
「いえ、特定の女性と仲良くしているような画角は控えます。
そうですねぇ~、 カイト君がプールに遊びに来たら女の子達に大歓迎されて、みんなではしゃいでいる、そんな情景で講英社さんと話を詰めている最中です」
岡三さんの説明に、質問を挟む西京さん。
「それでは弊社の出版する写真集はどの様なコンセプトでしょうか、それと出版スケジュールも」
「まずはタイムスケジュールですけど、講英社の写真集が出版されてから2週間後がリミットです、話題性を維持する為ですので、このラインは動かせない物と思ってください。
カメラマンは春章さんで、コンセプトは非日常です」
「第一弾の小集館さんが部活、講英社さんはプールデート、弊社は差別化を図るために非日常的な写真集を出版する訳ですね。
春章さんならKawateenでもお世話になっていますから、やり取りもやり易いでしょう」
「実は写真集の絵コンテは既に出来あがっております、MMバーガーのCMと並行して行きますので、スケジュール調整が大変になるかと……」
なんと俺は写真集を出す事になったのだけど、三社でとり合いにならない様に通電堂が間に入って調整、コンセプトの違う写真集を2週間隔で出版するそうだよ。
それとは別にMMバーガーのCMの第二弾も進行中、写真集とタイアップと言うか、CM撮りのついでに写真集も撮ってしまおうと言う、欲張りなプラン。
「カイト君、いかがですか、ここまでで何か質問とかはありませんか?」
「岡三さん、MMバーガーさんのCMの絵コンテがあるなら見せてください、それから俺はどう言ったキャラクターを演じれば良いのかも教えてください」
「まずはキャラクターですけど、前回とはまったく違うキャラですよ、あっ、絵コンテを見た方が早いですね」
岡三さんさんはそう言うとクリアファイルを俺に渡す。
そこに描かれていたのは男性が水面に立っている姿のラフスケッチ、純白のトーガみたいな服を着て、神殿みたいな建物の中を歩いている、両側には家来とおぼしき女性の列がかしずいている。
それ以外にも霧の森の中で野性の鹿と戯れたり、有り得ないシーンの連続。
「ずいぶんシーンが多いけど、大丈夫?」
「これは素案ですから、幾つかに絞ると思いますが、それでも撮影には三日を考えております。
大丈夫ですよ、カイト君の宿泊訓練の日には予定を入れない様にしてありますから」
「高校の宿泊訓練ですか、いやー、羨ましい、最高の思い出になりますからね、しっかり青春して来てください」
川講書店の西京さんが、心の底から羨ましそうに言う。
「楽しみですよ、シンフォニア高校はクラスの団結が強いんですよ、それは良い事なんだけど、他のクラスとの交流が少ないので、宿泊訓練ではクラスをシャッフルしたグループで行動するって言っていました」
「二度とない高校生活ですよ、声が枯れるまで楽しんでください。
それと弊社の読者モデルも青春を楽しみたいと言っております、いかがでしょうか?」
▽
川講書店から“献上”されたのは二人の美少女、Kawateenと言う雑誌の読者モデルの子達だよ。
もちろん美人さんなんだけど、この前紹介してもらったキッズアカデミーの子達とは違った美人さん。
これは素人が応募しているのだからだろう、そう思っていたのだけど。
「……実はわたしは芸能事務所に所属しているのですよ、色々あって事務所の名前は明かせませんけど」
オシャレな女の子、西都京鈴ちゃん、六年生だって。
今風な女の子で、ハキハキとよく喋る子だよ。
「読モになってから芸能事務所に入ったの?」
「逆ですね、事務所のマネージャーさんの指示ですよ。
わたしみたいな普通の子でデビューは無理ですから、読モに賭けたんですよ。
ホラッ、わたしって素人っぽいじゃないですか~」
「物凄いキレイな素人さんに見えるよ」
「… あの、お褒め頂き光栄です」
俺のお世辞に頬を赤らめるあたりは六年生らしいよ。
「カイト様、わたしは葛西敏京と申します」
自信なさげに話す、敏京ちゃん。
何と言うか、普通と言うか、庶民的な雰囲気がする子だよ。
「敏京ちゃんも事務所に所属しているの?」
「はい、わたしも、えっとー、読モ専門の事務所がありまして、そこの所属です」
「読モは長いのかな?」
「わたしは“じゃお”のモデルの頃からお世話になっています」
「敏京ちゃんの方が読モ歴が長いの?」
俺の質問に頷く二人。
長い方から先に可愛がってあげよう。
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今日も二人の小学生と仲良くなった、メイドさんは次から次に新人がやって来るし。
一言言えば、芸能事務所の美人さんを献上される。
口直しに幼いツボミを散らす、俺はこの世界に来て本当に良かったよ。
読者モデルは素人っぽい見た目が売りなのですけど、芸能プロダクションに所属していたりすると言う話です。




