79.女の楽園 ◆ 葉月向日葵 ◆
妊婦は天国みたいな場所で最高の待遇を受けます。
ここは南国、だけど肌を焦がす日焼けや、熱気に当てられ脱水症状も心配いらない。
もちろん、不快な虫の虫刺されも無い、理想の南国。
妊婦の楽園リズムの里、ここでは毎日マタニティマッサージを受ける事が出来るのよ。
至福の時間だけど、毎日では飽いてしまうので、いくつもバリエーションがあるの。
新品の畳みの香りがする純和風の部屋や、天井がプラネタリウムになっている星空の部屋、カントリー調のログハウス、壁面が大きな水槽になった水中の部屋……
ここは南国風のお部屋、壁は本物の木の柱とプロジェクションを組み合わせて、本当の南国に来たみたい。
上の方のスピーカーからは鳥の鳴き声が聞こえ、足元のスピーカーからはサワサワと水の流れる音。
横のスピーカーからは、名前の知らない南国風の弦楽器の音楽が心地良く響く。
わたし葉月向日葵は全裸でリクライニングチェアに横たわり、マタニティマッサージを受けている。
もちろんマッサージのお姉さんもそれっぽい衣装と髪型で雰囲気を出してくれている。
薄いバスタオルがお腹にかけられているけど、この下にはカイト君がいるんだ。
あの日を思い出すといまだに下腹が疼きます、わたしの中で暴れるカイト君、下腹から脊椎を通り、脳天まで突き抜けるような快感でした。
今でも思い出しオナニーのネタにしていますよ、妊婦でもシテも良いそうです、あんまり激しいのは控えた方が良いらしいですけどね。
妊婦天国のリズムの里、来たばかりは突然家族と引き離された不安で目元を赤くしたもの。
そんな泣き虫も、クラスのみんなとの話題は“今日はどこのマッサージに行く?”が挨拶。
数日経つとわたし達はすっかり骨抜きにされてしまった。
「向日葵さん、お疲れさまでした」
優しいお姉さんが、至福の時間が終わったと告げる。
「ああ、ありがとう、とっても良かったわ」
「満足されて何よりです」
ハイビスカス柄のシャツを着たお姉さんはニッコリ微笑んでくれます。
マタニティブラとダボッとした服を着ます、ここへ来てからソックスとか身体に痕が残る様な服は着ていませんね。
そうそう、リズムの里、遠くから見ると校舎の様な横長のマンションみたいな外見ですけど、中身はずいぶん違います。
横長の建物はいくつかもの縦割セグメントに分かれています、基本自分のセグメントの中で生活が完結する様に出来ているのです。
上の階は居住階、ゆったりとした個室ですよ、中層階は食堂とか談話室、下の方はアスレチックルームやプール、みんな大好きマッサージルーム。
移動は全てエレベーター、そう言えばエレベーター待ちをした事がありませんね、それくらい、たくさんの扉が並んでいます。
最初は“何だ縦割なんだろう?”と思っていたのですけど、縦にエレベーター移動は、歩く距離が最短になるのですよ。
エレベーターから降りると優等生のダリアと顔をあわせてしまいました、この子真面目で苦手なんですよね。
「向日葵さん、あなた今日も補科授業に来ませんでしたよね。
わたし達、いつかはシンフォニアに復学するのですよ」
「もう、ダリアは真面目だなぁ、ここは赤ちゃんを産む場所だよ、年表や三角関数は胎教には早いって」
フーッ、とため息をついた、神月原ダリア。
「向日葵さん、あなたはわたし達の後輩になりたいのかしら?
それから今から始まるプチママクラスは全員参加よ」
「は~い」
これ以上話しても無駄ね、ダリアの頭の中は出産後の人生設計に全振りしているの。
わたしはお腹の赤ちゃんに全振りよ。
▽
プチママクラス、もう少し月齢が進むとオシメ替えとか、抱っこの仕方とか、現実的なカリキュラムになるらしいのだけど、今はフワフワした授業よ。
「……はーい、皆さんにはこの前の授業でお腹の子供達に手紙を書いてもらいましたよね、皆さんとってもよく書けていましたよ。
その中でも良かったと思ったのがあったので、今から先生が読んでみますねぇー」
****************************************************
後数か月でわたしの前に現れる、名前も決まっていない娘。
まだ学生のわたしに子育てが出来るのか、不安で仕方がないですが、ベビーシッターさんやママのママ達と一緒に育ててあげますからね。
ママはまだ14歳、あなたが7歳になって小学校に入学しても、大学生ですよ、一緒に学校に行くのも楽しそうですね…………
****************************************************
あーあ、この手紙を書いたのは中学生の子ですね、三人いるけどジミ顔蘭ちゃんね、態度で分かるわよ。
こんなお鼻が上を向いた子にお情けを授けるなんて、カイト君は優しいですね。
わたし達のセグメントは月組と星組の子、それから中学生の子が三人ですよ。
卯月リンドウ先生は隣のセグメントにいます、時々顔を見ますけど、可愛く手を振ってくれます、歳上なんだけど、可愛らしいですよ。
「はい、とっても素敵な手紙でしたね、手紙にも書いてありましたけど、皆さんには専属のベビーシッターがつきます。
自然妊娠したのですから産後ケアも普通よりも手厚いですよ、安心して復学出来ますからね……」
わたし達今後、どこに進学するにしても学費は無料、それどころか毎月数万の学生手当まで支給されるそうですよ。
受験や就職でもかなり有利になるそうです、ダリアみたいにガツガツ勉強しなくても良いって訳よね。
「……この前の授業では産まれる子供に手紙を書いてもらいましたが、今日は皆さんに子種を授けてくださった殿方に手紙を書いてみましょう」
今日の課題は楽勝ね。
“素敵なエッチをありがとう、今でもオナネタに使わせてもらっています。
後ろに回り込んで首筋に熱い吐息、大きな手でわたしの柔らかい物をまさぐり、引っ張る。
イジワルなカイ君はわたしが痛いって言っても止めてくれませんでしたよね。
オッパイを大きくする魔法なんて言っていたけど、もぉ、女の子の敏感な場所なんですよ。
文句を言ってやろうと思ったら、今度は赤ちゃんみたいにジュッパジュッパとしゃぶりだすし……”




