78.小ぶりな女の子はいかが?
スパイ映画みたいな移動方法です。
雑誌デビュー、CMデビュー、そしてテレビデビューをしてから二週間が過ぎた。
それまでも忙しいと思っていたのだけど、デビュー後の忙しさはまるで桁違い、学校に通うのは週に3,4日、通学の日でも放課後はインタビューやCM撮りが入っている。
その学校に通うのもずいぶん変わった、葵咲と一緒にマンションのエレベーターを降りると、警護の淡路島さんと海馬島さんが待っている。
海馬島さんはやはり本庁の警備部から派遣されて来た人で、背格好が俺とほぼ同じ、髪型も揃えて、シンフォニア高校の制服を着れば遠目からは見分けがつかないよ。
車両のエントランスの一番端はギリギリ公道から見えるポジション、そこでこれ見よがしに葵咲や淡路島さん、そして海馬島さんが車に乗り込む。
無人タクシーはまず11区中学に行き、葵咲を降ろす。
良く出来た妹は大きな声で“お兄ちゃん、行って来るね!”と大きな声で挨拶をするそうだよ。
肝心の俺は礼文さんと利尻さんに囲まれ、マンションの物品搬入口と言う場所に停められたデリバリー車に良く似たVIP送迎車に乗り込む、毎日がスパイ映画みたいだよ。
無人車の中で俺は礼文さんに訊く。
「礼文さん、毎日偽装工作をする必要があるの?」
「絶対に必要です、わたしが加害者だとしたら、タクシーの前後に障害物を置きますね、動けなくしてから、力づくでドアをこじ開けて対象を拉致します」
「そんな力技を使わなくても無人タクシーを遠隔操作すれば、簡単に拉致出来ますよ、自律走行が基本ですけど、一定の条件が揃えば遠隔操作が出来るのですよ。
内容が内容ですので具体的な事は申せませんが……」
利尻さんが、もっとスマートな拉致方法を披露する。
警備の隙を突く方法を披露している間に無人車はシンフォニア高校の物品搬入口に到着。
流れる様な動作で、車外に出た利尻さんが、安全を確認して桜ちゃん先生に俺を引き渡すまでが一連の流れ。
「なんか久しぶりにカイト君の顔を見ますね」
「俺も桜ちゃん先生に会いたかったよ」
軽口に可愛く俺の脇を肘で打つロリ先生、身体を重ねた者同士特有の距離感だよ。
その後は八人で授業を受け、昼休みは食事の後は、メイドさんと今一つスッキリしない仲良しをする。
最近は白い物が出なくても“こう言うものだから”と半ばあきらめの様な気持になっている、妊娠させたくない、と言う俺の気持ちが身体をコントロールしているのだろうか。
▽
教室に戻ろうとしている俺に声をかけて来る人が。
「あの、失礼ですがカイト様ですね」
歳は30代くらいだろう、何と言うか“先生”と言う雰囲気をまとっている女性、だけどこの学校にはこんな先生はいなかったはずだけど。
「そうだけど、あなたは誰?」
「これは失礼致しました、わたくし明神坂紅藤と申します、ここ日王市の片隅で学校を運営している者です。
突然のお声掛け申し訳ございません、どうしてもカイト様に助けて欲しい事がありまして、お時間はとらせません、お話だけでも聞いて頂けないでしょうか?」
「いいけど、一体何なの」
「はい、カイト様はアルトの家はご存知ですよね、あの家の子達は10歳の誕生日を迎えるとメロディ学園と言うメイドの養成所に送られるのですけど。
メロディ学園の入学は3月と9月なのですよ、監督官庁の違いでタイムラグが出来てしまうのですけど、それまでの間子供達を預かっているのがヴィオラ学校と言う場所なんです」
「そんな学校があるんだね」
何だろう? 寄付のお願いとかかな。
「実はヴィオラ学校は学校とは言うものの、厚生労働省や文部科学省の所管から外れ市の助成金で細々と運営しているのです。
そんな弱い立場の子達に無体を働く方がいるので……」
「それは、警察に頼まないといけない様な事なの?」
「いえ、警察よりももっと権力のある方々でございます。
スタリオン学園の殿方が、ヴィオラ学校の生徒を所望されるのです、まだ年端もいかない幼い子が殿方に嬲られるのは辛くて、なんとか出来ないものかと」
「それってクレセントの乙女の事なの?」
「いえ、クレセントの乙女の子達はまだ、ちゃんとした家の子達なのですが。
孤児は立場が弱いので、その殿方達は面白半分に … … 」
話の途中で授業開始のベルが鳴った、まさに後ろ髪を引かれる思いで教室に向かった俺。
思い出すのは瑪瑙ちゃん、小学生が嬲られ、妊娠と出産を経験した。
瑪瑙ちゃん以外にもそんな辛い目に遭っている子がいるんだと思うと、俺の心はもう決まっていた。
▽
放課後、物品搬入口に行くと、警護の礼文さんと利尻さんそして、明神坂さんと車に乗り込む。
無人車は市の中心とは反対方向に進んで行く、ちょっと前にバーベキュー大会を開いた公園の反対側、まさしく森の中に有るヴィオラ学校。
清潔だが装飾の無い応接室に通されると、小さな女の子が俺の前に連れだされた。
「こちら稚草と申します」
最近は芸能界と接点が増えた俺だが、その俺でも見た瞬間に“可愛い”そう感じた子だった。
小さい子を見ると可愛いと感じる、これは動物としての本能の様な物らしいが、まさに本能を刺激する可愛さだ。
愛らしい目と、形の良い鼻、上品な唇、蜂蜜色の髪は緩く肩口でカールしている。
今は10歳で可愛いけど、5年後はオシャレな女子高生になり、もう5年経てば成熟した大人の美しさをまとうであろう。
見た瞬間に将来まで見通せてしまう整った子だが、身長はやっと俺の胸に届くか届かないかの幼い子、手足は折れそうなほど細いし、何と言うか全体に小ぶりな印象。
そんな俺の気持ちを見抜いてか、明神坂さんが言う。
「カイト様、施設の子は栄養が足りていない子が多いので、身長が低めです、これでも月の物は来ておりますので。
いかがでしょう、カイト様、稚草を気に入ったと宣言していただけないでしょうか。
「まぁ、それくらいなら」
細く弱い一本だが、つる草が脚に絡みついた。




