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75.イジワルアナウンサー



 水曜の午後帝都にやって来たけど、高級ホテルに缶詰め状態、元アナウンサーの鎧橋さんがやって来て、アクセントを直してくれる、対談番組とは言うものの、実際は演技をするだけだよ。


 広告代理手の作ったイメージ像を演じる、前半は清潔感が有るスポーツマンを演じる、そこで最初のビデオが流れて、俺が河川敷でランニングしたり筋トレをしたり。

 後半のトークではスモーの紹介、ここではスポーツマンを一旦抜けだし、文学に造詣の深い知的な印象を与える。

 ここで二回目のビデオ、女子スモーの練習風景を流しながら俺が解説を入れる。

 三回目のトークはスモーの締めで、終わりの挨拶。


 ▽


 もう何十回も繰り返したし、イジワルな質問にもアドリブで対応できるようになって来た、それでも元アナウンサーは手綱を緩めようとしない。

「まだまだです、たった15分です、集中を切らさない様にしてください」


鎧橋よろいばしさん、ビデオが流れている時なら平気じゃないの?」


「やつらは気を抜いた表情をするとワイプで抜いて来ます、敵はアナウンサーだけじゃありません、プロデューサーを筆頭に音声もミキサーもカメラマンも敵です。

 孤立無援で敵陣に乗り込む気概を持ってください」


「それは大げさじゃないのかな?」


「昨日まででしたら、そうでしょう、ですがMMバーガーとキンセのCMを観た後では、どれだけ準備しても足りません」


「ふーん、鎧橋よろいばしさんは俺のCMを観てどう思ったの?」


「MMバーガーは爽やかなスポーツマンでしたね、清潔感があって消臭剤が服を着ているみたいでしたよ」


 それは褒めているの?

「インタビューの前半だね」


「そうです、反面キンセは知的なイメージを押し出していましたね」


「それは、どうも」

 キンセの広告は完成品を見てビックリしたよ、映像効果やスローを多用して、幻想的な仕上がり、もはやCMと言うよりも芸術品。



 ▽▽



 万全な準備をして臨んだインタビュー。


 HNKのスタジオ、ここからの景色を一言で言うなら真っ白な光の世界、どの方向を見ても照明が容赦なく眼球に刺さる。

 切れ者のアナウンサー初台坂みゆうの言葉は更に鋭く俺に刺さって来る。


 この国最高の大学を首席で卒業、報道部では社会問題も鋭く切り込んだコメントと大手企業や政治家に忖度しない取材姿勢。

 信じられないくらい男が威張っているこの社会でも、遠慮する事無く鋭い質問を投げかける、男性優位なんて言葉は彼女の中では価値がないのだろう。

 代理店が準備した台本なんて最初から無視しているよ。


 今はビデオが流されそれにコメントを入れている。

「女の子達がおかしな仕草をしていますね、これはどんな意味があるのですか、カイト様」


「これはシコと言うのです、運動経験者なら股割は知っていますよね、柔軟性と体幹の筋肉を鍛えるのですよ」


「なんとも独特な動きですが、バレエ経験者に向いていそうですね」


「柔軟性が大事なスポーツですけど、色々な人に楽しんで欲しいですね」


「あっ、これはカイト様ですね」


「ああ、これは優勝した子と勝負ですね」


 画面には育ちの良い中学生の子とガップリ四つで組んでいる俺が映っている。

 後で聞いたが、実況民が大騒ぎ、サーバーダウンにまで至ったそうだよ。



「……まったく新しスポーツのスモーですけど、色々と変わっていますね」


「目新しいと言う意味でしたら同意しますね」


「先程のビデオでも流れていましたが、審判の合図で始める訳ではないのですね、互いの目線が合った時が試合開始の合図とは斬新ですね」


「選手同士で始めて、セルフジャッジで終わると言うのが基本です。

 ですから審判ではなくギョージと言う名前で呼んでみました。

 単なる力比べではなく、互いを知るためのコミュニケーションツールとして知って欲しいですね」


「カイト様はスポーツを嗜むだけでなく、文学にも造詣が深いそうですね、スモーも小説になさったそうで、わたしも読ませて頂きましたがとってもワクワクしました」


「初台坂さんもティーン誌を読まれるのですね、ビックリですよ」


 二人で品よく笑うけど、どちらも目が全然笑っていない、笑っている演技だよ。


「ボクは皆さんとは違う経験をしてきました、その経験を少しでも伝える事が出来たらと思って筆を取った次第です。

 もちろん全てを淡々と書いては単なる報告書にしかなりませんので、ボクなりに話しを創ったのですよ」

 うん、一言もウソはいっていないよ。


「多才な才能をお持ちですね、番組独自に調べたのですが、カイト様は孤児の施設に本を寄贈なさっているそうですね、人としても優れたお方で、わたしも見習わなくてはと思った次第です。

 いかがですか、どの様な経緯で孤児の施設に本を届けようと思ったのでしょうか、お聞かせ願えませんか」


 最初の予定の15分はとっくにオーバーしているのに、締める気配は微塵も感じさせない、それどころか新しい話題を投入して来た。

 寄付の話はどこから漏れたんだ、報道部は甘くないね。


「番組の調査力には舌を巻きますね、ですが本の寄付を行っているのは出版社さんですよ、ボクは音頭を取っただけです。

 孤児の施設に行かれた事がある方ならご存知かと思いますが、施設の読書環境はお世辞にも優れた物とは言えないのです、そんな状況を何とかしたいと思った次第でして。

 この番組を見たお方が少しでもこの気持ちを感じて頂ければ嬉しい限りです」




 警察のキャリアが出て来ましたが、もう出番はないと思います、ドラマや映画等では現場で大活躍していますが。

 キャリアは階級こそついていますが、行政職の職員、現場に出る事はありえません。



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