74.秘密基地
桜ちゃん先生の服が整い、涙の痕を拭き取ったけど、髪が乱れて逆に背徳的だ。
“もう一回しようかな”なんて思ったタイミングで奥尻さん達が車内に戻って来た、絶対に車内で何が起きたか知っているよね。
文字通り音も無く動き出した無人車、日王市の端の方、デリバリーの車が忙しそうに走り回る倉庫街に入って行く。
倉庫街の道を走っていた車は気がつけば斜路を降りていく。
「ねぇ、これが貨物駅につながる道なの?」
「ええ、その通りですよ、流通地区は基本無人区域です、もちろん監視カメラは作動していますし、許可の無い人は入って来られないですので、最悪カイト様の存在がバレても安全は確保されます」
無人車がデフォルトの世界、地下通路の照明は最低限で逆に未来感がある。
男のロマンをくすぐる地下秘密基地、わくわくしながら外を見ていたけど、突然車が止まりドアが開くと、利尻さんと礼文さんが機敏な動作で車外に飛び出す。
「カイト様、安全です」
真っ黒いサングラスをした礼文さんに安全宣言をされ無人タクシーを降りたがその先はやはり応接間だった。
「ここどこ?」
「要人輸送の専用車両です」
無人タクシーは専用車両のドアに横付けしたわけだ、薄暗い地下ターミナルを歩く中二的な想像をしていた俺には拍子抜けだ。
警察キャリアの奥尻さんは更に続ける。
「この車両は外から見ると単なるコンテナにしか見えません、通過駅で一般人の目に止まっても単なる貨物列車の車列にしか見えませんのご安心を」
「それはどうも」
「これからカイト様はこの方法で移動する事になると思いますが、他言はしないでくださいね」
偽装した秘密車両か、違う中二マインドを刺激するね。
▽
秘密車両の中でマッタリと時間を潰している、いつまで経っても発車の気配が無い、
ケータリングのお弁当を食べ終わった頃、スマホが鳴った、代理店の岡三さんだ。
短めの社交辞令の後は、俺が今どこにいるかを訊いて来た。
前に座っている警察関係者の人達は“言うな”とボディーランゲージ。
「すいません、色々有ってどこにいるかは言えないのですよ」
[それは、良い事です、帝都は今大変な事になっていますから、こちらに来る時には警察の指示に従ってくださいね]
「いったい何があったんですか?」
[今日はMMバーガーとキンセで一斉にキャンペーン開始なんですよ、キンセスポーツの直営店ではパネルを店頭に出したのですけど、人が集まってしまいまして……]
パネルって言うのは等身大パネルの事だよ、最初は時々立ち止まってスマホを向けるくらいだったけど、人垣が二重三重になって歩道を塞ぐ程になると警察が出てきて人垣を排除しようと動き出した、ここまでは良かったのだけど。
店の方にパネルを見えない場所に仕舞う様に指示したそうで、それまで警察の指示に従っていた野次馬も怒った暴徒になって警察官に詰め寄ったそうだよ。
通りは一時騒然となったそうで、機動隊の出動まであったそうだよ。
意外にも騒ぎを鎮めたのは広告代理店、
“週末に区民体育館でパネルと一緒に撮影会を開きます、参加条件は5000円以上のキンセのレシート”
キンセ直営店では文字通りの棚がスカスカになったそうだよ。
区民体育館なんてすぐに予約できるのかな? 通電堂さん、この騒ぎを予想していたんじゃないの。
常にキャンペーンをおこなっているMMバーガーではもっと上手に立ちまわっていた。
俺がハンバーガーを持っているポスターは目線より上に掲げて人垣が出来ない様に。
ビッグサイズのバーガーセットを買うともらえる、フライヤーと言うB5サイズくらいのチラシはクリアファイルに入れて差し出すと言う、マニア心をしっかり理解した対応。
◆台場 文子 ◆
わたしはいつから道を踏み外したのでしょう? 物心ついた時にはテレビアニメに夢中、ピンクの髪の主人公が変身して自分の街だけを侵略するローカルな敵と戦う、その姿に心を躍らせたものです。
初めて買ってもらったマンガ雑誌“なガよし”あっという間にマンガのとりこになりました。
月の物が来た辺りから“なガよし”が子供っぽく見えて来て、お姉さん雑誌の“少女フレンと”にステップアップ。
初めて自分でマンガを描いたのはいつだったのでしょう? お気に入りのマンガキャラを真似した延長だったのでしょうか。
中学生になる頃にはお気に入りマンガの続編やアナザーストーリーを作っていました、殆どが完結しませんでしたけどね。
二次創作と言う言葉を覚えたのは、同人誌と言う沼に嵌る前だったでしょうか、後だったでしょうか。
大学生になった今、年二回のお祭りは始発便で参加、行列もイベントです。
さて、同人事情について少し、基本三つに分かれます、男×男これがメインストリームです。
男×女、少女マンガ路線をそのまま踏襲した流れですね。
女×女、これは細分化されていまして、ボーイシュな女子とガーリーな女子の絡み、妹系、幼馴染系。
面白いのは女×女を描いている人でも、性癖はノーマルな人が多いです、あくまでもわたしの主観ですけどね。
わたし台場文子はメインストリームの男×男です、なんだかんだ言って一番人気です、その分競争も厳しいですけどね。
数日前からネット上で今度発売のティーン誌でとんでもないボーイズモデルがデビューすると噂になっていました、深夜のコンビニはお祭り騒ぎでしたけど、なんとかゲット。
今は新たな創作の源泉を身体に取り込んでいる最中です。
荒川カイトこれは攻めも受けもお任せなキャラですね。
それよりもわたしの想像力をかき立てたのはスモー。
プチ・ジュニでは中学生の女の子が組み合っているだけですが、わたし程の妄想上級者になれば、余裕で男×男に変換できますよ。
夏コミのサークル参加が当選しました、今からならばもう一冊スモーに特化した本を創れそうです、印刷所の早割は間に合わないかもしれないですけどね。
貞操逆転世界でも同人誌はありますし、年に二回のイベントもあります。