72.マットの上の火山
子種が出なくなった一番の理由ですけど、デリケートな問題です。
いままでなら、こう言った事の後は女の子が用意されていて、短いながらも濃密な時間を過ごしていたのだけど、最近はそれがなく、帰りも早くなった。
まだ昼間の温度が残る歩道を護衛の淡路島さんと歩く。
「あっ、星が見えたよ、結構明るい星だね、淡路島さん」
「この時間帯に見えると言う事は、たぶん金星でしょうね」
「へぇ~、そうなんだ、地学で習っているところでさぁ、天文学って面白そうだよね」
「カイト様、わたくし護衛です、対象に害をなす無頼者を倒すのが仕事と言うものですが、主人に対してこの様な事を言うのははばかられますが、意見をよろしいでしょうか?」
「何? 急にあらたまって、もちろん聞かせて欲しいよ」
「カイト様は寂しいのですか」
護衛のお姉さんの言葉は俺の心に隠しておいた本音をいともあっさり、さらけ出させる。
「そりゃ、まぁ」
「以前、わたしにメイド達を紹介なさってくださいましたよね“俺の家族を紹介するよ”と仰って。
その家族が一気にいなくなってしまって寂しい思いをしているのかと思ったのです、生意気な護衛の戯言です、お気に触ったら謝ります」
「なんでか知らないけど、俺の周りの人達は妊娠してめでたいと喜んでばかりなんだよ、もっとたくさん妊娠させろって。
だけど妊娠したら俺のもとからいなくなっちゃうのだよ」
「こればかりは、女性にとっておめでたい事ですけど、純粋に喜べないとは如何ともしがたいですね」
「どうして、結婚が出来ないのかな?」
護衛対象が最後に放った一言、中世の社会習慣の一つ結婚、現代人には遠い過去の出来事、返事に困った警護員はただ沈黙を貫くのみ。
群青色の空が次第に黒く染まっていく時間帯、二人とも一言も話さずマンションまで帰った。
▽
「お兄ちゃん、お帰りなさい!」
葵咲の元気の良い声を聞くと、帰り際の沈んだ気持ちも一瞬で晴れる。
「ただいま、葵咲」
「ねぇねぇ、出版社から荷物が届いているよ、開けても良いかな」
俺がモデルの仕事をしている事を知っている妹の葵咲、荷物の中身もとっくに気がついているのだろう。
「いいよ、あっ、そうだ、実紅梨ちゃん達やメイドさん達にも開けるのを手伝ってもらったらどうかな?」
自分が本になったんだからみんなに見てもらいたいよね。
▽
宅配荷物の中身は献本と言って関係者の知り合いとかに配ったりする為の本。
リビングはあっという間に姦しい声に包まれる。
「凄いです、カッコ良い」
「こっちの写真を見た? めっちゃイケメンだよ」
「この顔は超かっこいい、下着を汚しそう」
「秋葉! 小さい子もいるのよ、変な事言わないの」
メイドとは言え、俺の家が初めての仕事場、色々と教えてくれる先輩もいないので、メイド達は暴走しがち。
そんな彼女達の手綱を握るのが日置呉葉ちゃん。
本来の仕事に戻ったメイドさん達は粛々と食事の世話をしてくれるのだけど、心なしか声のトーンが一段高かかった。
▽
「カイト様、お風呂はいかがでしょうか?」
「ああ、お願いしようかな、今日は誰と誰」
「葉月と百葉でございます。
あの、カイト様、わたくしがこの様な事を言うべきではないかもしれませんが、無理に相手にしなくてもよろしいのでは」
「大丈夫だよ、俺はやりたいようにするだけだから」
▽
「カイト様、今日はお疲れでしょうか?」
ジャグジーに横たわる俺に訊いてくる百葉ちゃん、目がギンギンしているよ。
「う~ん、それ程疲れていないかな」
「それでしたら、マッサージの準備を致しますね!」
メイドにしては元気が良すぎる返事でテキパキとエアーマットを引いて、ローションを両手で練っている葉月ちゃん。
「カイト様、マッサージの準備が出来ました、どうぞこちらに」
ギュギュと音を鳴らす塩化ビニールに横たわると、空気の圧力が体重に負けへこみをつくる。
ご主人様の身体をほぐそうと、けなげなメイド二人は全身を使ったマッサージ。
密着する女性の触感、ローションの淫靡な音が聴覚を刺激し、濡れたビニールの匂いが鼻腔から入り込み始原の時代から続いている本能を刺激すると、体内の奥深くに眠っていた熱いマグマを呼び起こす。
予告も無く身体を反転させるとマグマの力を帯びた硬い玄武岩がローションを叩く。
オレンジ色の間接照明に照らされた天井と、鼻の頭に汗を浮かべたメイドさん達が目に入るが、彼女達は玄武岩の石柱から目が離せない様子。
「 …… 」
「いいよ」
無言の懇願に短く答えると、一番柔らかい場所に、一番硬い物を押し込み始めた。
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メイドさんのご奉仕は俺が白いマグマを吐き出すのが終了の合図だったが、みんながいなくなった日から俺のマグマは一度も飛び出していない。
これは玄武岩の石柱がいつまで経っても硬いままと言う意味でもある。
最初はけなげなメイドのご奉仕だったが、男の身体に跨り放題と言う事に気がつくと、メスに成り下がったメイドさんは嬌声を上げ、絶頂を迎え、最後はだらしなく気を失っていく。
あられもない姿で横たわる百葉ちゃん、アップにしていた髪は見苦しく解け、自慢の黒髪はローションまみれ。
俺の胸に倒れ込みハァハァと息をしている葉月ちゃん、下半身がケイレンを起こしているのが分かるよ。
「カイト様、本日もメイド達に悦びを授けて頂きありがとうございました」
しっかりメイドの呉葉ちゃんがやって来てローションを洗い流してくれる。
マグマの出なくなった玄武岩は俺の体力を吸い出し尽くしおとなしくなっていた、最後のそう快感の無い交わりばかりで心は不完全燃焼だよ。