56.叩かれるのが女の仕事 ◆ 荒川 葵咲 ◆
妹目線の話です。
クズな男性の胸くそ描写にご注意ください。
金曜の午後、一年生だけ講堂に集められて男性に関する特別講義があるそうよ、最近覚えた性欲と言う武器を上手く使いこなせず、空回りしがちな中一に対する戒めの授業かしら。
「なんかさ、こーせーのーどー省とかから講師が来るんだって」
「エッチの仕方を教えてくれるのかな」
「先輩に聞いたけど、チンコの写真が見られるって」
『マジー!!』
サル以下のIQの女子中学生の前に現れたのはスーツを着た20代後半の女性。
「わたくし、厚生労働省、医政局から来ました所沢と申します。
今日は男性の勃起と射精についてお話ししていきたいと思います……」
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いきなり明け透けな紹介ね、だけどわたしは男の本質はとっくに知っているの。
小六の冬だったから、今から半年前になるのかな?
放課後担任に呼ばれ、男性居住区で男子の疑似家族、通称“クレセントの乙女”に選ばれましたとの事。
二つ返事で受けたわよ、だって美人しか選ばれないって言われているのよ。
一度も家にも帰らず、担当官さんにそのままタクシーに乗せられたわ、今思えば、家族に反対させる隙を与えない措置だったのね。
担当菅さんから説明を受け、わたしは15歳の男子の妹役、他に姉役に女子高生が3人とママ役の女子大生が2人いて、数か月でローテーションしているそうなの。
わたしは妹に成りきって、可愛く“お兄ちゃん”を連発したのよ、わたしを見てニコニコ笑ってくれたお兄ちゃん、大好きだよ。
お兄ちゃんのお気に入りになれたわたしは、狩りの間って言う部屋にお呼ばれされたの。
オレンジ色の照明にクッションとか、エアーマットとかが並べてあって、入った瞬間に身構えたけど、お兄ちゃんの前では妹スマイルよ。
そんなわたしに覆いかぶさって来たお兄ちゃん、痛くて、重くて、あとは …… 物凄く嫌だったけど、担当官さんに教えられた通り、一生懸命抵抗したわ。
そんなわたしにお兄ちゃんはわたしに汚い言葉、涙がポロポロと溢れだしたら、
“つまんねー”
って言って出て行ってしまったの。
担当官さんはわたしを褒めてくれたわ、男性は攻撃的にならないと精液を作れないらしいの、わたしがイジメられる事で、大勢の新しい生命が生まれるって言われたわ。
あら、特別講義でも同じ事を言っているわね。
*** ***
プロジェクターには二つの円形と縦棒。
「……こちらの精巣で精子は作られる、そして陰茎の先から放出されるのだが、必ず勃起をする必要がある、こちらを見て欲しい」
プロジェクターには情けない肉塊。
「これが男性の陰茎だ、あなた達がコッソリ読んでいるマンガ本に出て来るのとはずいぶん姿が違うだろう、これが本来の姿だ」
同級生達はザワザワしている、
「この醜い器官は骨も無ければ筋肉も無い、ではどうして硬くなるかと言うと、血液だ大量の血液が身体中から送り込まれ、この情けない塊が凶器の様に硬くなる、あなた達が大好きなディルドの様にね」
エッチな話が聞けるから、嬉しい! そんな子達はいなくなった。
「さて、大量の血液を送り込む、これは身体には大きな負担がかかる行為、高血圧な体質の人は命を落す事もある危険な行為です。
生物学的にはマイナスな行為ですよね、出来ればやらない方が良い。
そんな男性を奮い立たせるのが」
プロジェクターには“暴力”の二文字、おどろおどろしい赤いフォントが流血を暗示させるわね。
「男性と言う生き物は女性に暴力を振るう事によって、醜い陰茎に血液を集め、自然交配をしているのですよ。
耳年増のあなた方は男性の暴力について、本やネットで情報を得ているかもしれないですけど、あれは全て作りものです、本物の男性の姿がこれです」
長い髪を引っ張られ、苦痛に顔を歪める女性、顔中を殴ら鼻血と青あざだらけの女性、数人の男性に囲まれ、嬲られている女性。
そんな写真が次々とプロジェクターに現れては消え、現れては消え。
“わたし絶対にスタリオンには行かない”
“酷い”
“なんで、あんな事を”
所々で声が聞こえて来るけど、ほとんどの子は残酷写真に身体が固まってしまったようね。
「……この様に、いたいけな女性が酷い目に遭っ……」
突然マイクの音が消えて、講堂の電気が点灯した。
「本日の厚生労働省の講義はここまでです、全員クラス担任の指示に従い教室に戻る様に、
繰り返します、全員教室に戻る様に」
ステージの上では講師と学校の先生がもみ合いをしている。
“皆さん、これが男の本当の姿です!”
先生達が数人がかりで抑え込もうとしている。
“今も大勢の女性が酷い目に遭って……”
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わたしは酷い目に遭ったと思っていたけど、ずいぶんマシなほうだったのね。
お兄ちゃんは週に一回くらいの割合で、わたしをイジメていたの。
精一杯頑張ろうとしたけど、汚い言葉を受けると、涙が止まらなくなって、お兄ちゃんはそのまま止めてしまうの。
お姉さんやママ役の人達はイッパイ抵抗するから、上に乗ってもらえるのに、ダメな妹です、わたしは。
そんなある日、お兄ちゃんが自殺未遂をしたと言う話が飛び込んで来ました。
担当官さんは、すぐに疑似家族の解散を命令したの。
その日のうちに、みんな荷物をまとめて出て行ったわ、誰もお兄ちゃんを待っていてあげよう、そんな人は一人もいなかったの。
わたしは担当官さんに食い下がって、お兄ちゃんを待つと言い張って、最後は担当官さんも折れたわ。
二日目のお昼に、意識が戻った、って病院から連絡があったわ、だけど記憶を無くしてしまったらしいの。
それってお兄ちゃんじゃないよね、けど、わたしは妹なの、たとえシンフォニア高校に行っても、一緒にいてあげるからね。
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二話分に分けました。