54.二人でも面倒見ちゃいます 三日月編
設定では現代日本よりも30年くらい進んだ社会ですが、全てが均一に進んでいるわけではなく、現代と同じくらいか、遅れている部分もあるご都合主義な世界です。
例えば、本は紙と電子版の両方がありますが、紙の本が圧倒的に売れています。
学校の教科書も当然紙です、タブレットは影も形もありません。
ならば印刷産業は進んでいるかと言うと、主流は現代と同じオフセット印刷でオンデマンド印刷は試作とか、小ロットのみです。
こちらの世界のアニメ事情を少し。
ネットが発達しているにも関わらず、地上波アニメの本数は多く、スポ根物やロボットアニメ、日常アニメ等が毎日放送されている。
意外にも特撮物も盛んだった、もちろん登場人物は女性で、5人で変身したり、前の世界に似ているけど、やはり女性が中心の世界だけあって、キャラクターの色は原色ではなく、ラベンダーブルーとかライムグリーンみたいな中間色。
なぜか仮面を被るのではなく、素顔を晒したまま戦う番組が多いのは男女の違いだろうか。
子供に一番人気は魔法少女物、魔法の力で変身して悪と戦う少女達。
小集館も魔法少女物を手掛けているので、キャラグッズをお土産にもらって、黄美夏ちゃん達に渡したら、大歓迎を受け。
ママメイド達は涙を流して喜んでいたよ、
“ご主人様から素敵な物を授けてくれるなんて”
こっちの男性威張り過ぎでしょ。
とは言え、帰るべき家があって、出迎えてくれる家族がいると言う事は心が安らぐ。
▽
日王市ののどかな日々を満喫したのもつかの間、水曜の放課後に小集館の編集の人と、芸能事務所のマネージャーが来て、話しをしたいそうだ。
そして今日は三田さんの代わりに東西さんと言う人が内務省からやって来た、優しそうな人だけど、これは男の前だからだよ、外見に騙されない様に。
「まずは、こちらをご覧ください」
プチ・ジュニ編集部の十六モモさんがクリアファイルを差し出す。
中身は俺の陸上部写真だけど、しっかりとページレイアウトがされて、それぞれの競技の紹介文や、短いけどセンスのあるキャッチが載っている。
「俺って、こんな顔をしていたんですね」
「正直に言いますと、どの写真を使うか非常に迷いました、どれも高水準、それが何十枚も。
普通は逆なんですよ、どれを使えば良いか、写真の山から掘り出す作業なんですけど、今回は嬉しい悲鳴です」
「モモさんが、楽で来て良かったですよ」
「はい、編集長には一発でOKもらいました、恥ずかしながら入社以来初めてですよ。
更に紙もグレードアップして良いと言われまして、あっ、見本を見た方が良いですね」
モモさんはそう言うと、別のファイルから紙を差し出してくれる。
「こちらが最初に予定して紙、こっちがグラビア用のコート紙ですよ、どうですか、艶が全然違うでしょ……」
モモさんは本の作り方を色々教えてくれて、ページは2ページ、4ページ、8ページ、16ページと増えていくそうで、もちろん2ページ+8ページとか言う組みわせも出来なくはないけど、
一枚の紙で16ページが一番経済的だそうだよ。
今回は16ページの高級紙でページを確保出来たそうだ。
「……今回は16ページを頂いたのですけど、そのうち4ページは広告となります」
「はぁ、それはお任せしますけど」
俺に雑誌のページの振り分けまでは無理だよ。
「広告は代理店の提案で、MMバーガーと、下着のキンセの広告、アスリート向けと言うか、スポーツブラみたいな商品ラインナップのキンセスポーツの広告が入る予定ですけど、今営業部と調整中です」
「ああ、今回は陸上部だから、丁度良いですね」
「その通りです、それでですね、他の部活の写真も撮りたいのですけど、カイト君が毎回帝都に来るのも大変でしょうから、日王市の学校を借りて撮影のスケジュールを組みたいのですけど」
「気を使ってありがとうございます、だけど撮影なんて、人も機材も多くて大変ですよね、皆さんにご迷惑になるでしょうから、前回通り俺が帝都に行くと言う形で良いですよ」
俺の言葉に、十六モモさんは“ありがとうございます”とペコペコ頭を下げたけど、本音は家庭教師のお姉さんとイチャイチャシタいだけなんだよ。
男子高生なんてお猿さんだよ。
「……こちらの文章、ジュニア向けのスモー小説と、マンガの原作です、目を通しておいてくださいね、念の為パソコンにも同じ物を送ってありますけど」
家庭教師のお姉さんの柔らかさを思い出し、心の中でニヤケていたけど、現実に引き戻された、俺が書いた訳ではない、いわゆるゴーストライター、法的にはともかく、倫理的にはどうなんだ。
「はぁ、あとで目を通しますね」
「カイト君、気に入らなければ、意見を言っても平気ですよ」
東西さんが俺に言う。
「大勢の人達がスモーの為に頑張ってくれているんです、不満なんてありませんよ」
「ウソはダメですよ、カイト君、本当はこう言った事に抵抗があるんじゃないですか? 社長が言っていましたし」
「泉州さんがなんて?」
「正義感が強いけど、周りにあわせがちだって、そう言う人には不満が大きくなる前に、聞いてあげる様に、って言っていました」
「やっぱり、人の上に立つ人は違いますね、しっかり見抜かれていました」
「わたくしから 提案ですが、ペンネームを替えたらどうでしょうか。
本物のカイト君が書いた文章はカタカナで“カイト”そうじゃない文章は平仮名で“かいと”って分けてみては」
「ああ、東西さん、それで良いです」
少なくともウソはついていないよね、ギリギリだけど、世の中キレイごとだけで回っているわけじゃない、丁度良い落し所だ。
「小集館さんはもう宜しいですか?」
「あっ、終わりました。
日本橋プロの万世橋さんからお話しがありますけど、カイト君、どうします、一旦休憩しますか?」
「そのまま続けてください、それで万世橋さんは何のお話しですか?」
「それじゃ、お話しをしますね、小集館さんも関係ありますから、十六さんも同席したままで」
「はい」
十六モモさんが品の良い返事。
「先程小集館さんからお話しがあった通り、カイト君に通電堂経由で、MMバーガーと下着ブランドのキンセのアスリート向けブランド、キンセスポーツの広告が入っています。
更にそれぞれ、テレビCMの話しが来ていますが。
カイト君はデビューしたばかりですし、二つも同時は大変でしょうハンバーガーと下着、どちらを選びますか?」
「両方お願いします、あれ、もしかて二つ同時は業界のタブーとかですか?」
「それは問題ありませんが、かなり忙しいですよ」
「ヘーキでしょ」
「最初に言っておきますけど、テレビCM撮りは時間がかかりますよ、30秒のCMに深夜までかかる事は普通だと思ってください。
それに今回は動画だけでなく、店頭用のスチールやフライヤー用の写真も撮らないといけませんし」
「なんとかなるんじゃないですかね」
十六モモさんが俺に言う。
「カイト君、まだ営業部から連絡をもらった訳ではないですが、プチ・ジュニ向けのスチールも撮る事になると思いますよ、こう言う時は雑誌オリジナルの写真の方が受けが良いので」
「うーん、この前の学校の撮影は疲れました」
十六さんと万世橋さんはウンウンと頷いている。
「だけど、ホテルで癒してもらいましたから」
芸能事務所の女の子を用意しろと、遠回しに言った俺、最低なクズだね。
「あの程度でよければいくらでも、実は今日も二人程連れて来ました、どちらか気に入った方を可愛がってあげてくれたら、喜ばしい限りです。
▽▽
ちょっと早いけど、晩御飯、俺はガッツリ男飯だけど、女の子達はパスタを美味しそうに頬張る。
フワフワした髪型でいかにも女の子って言った感じな神田橋沙耶歌ちゃん。
ストレートな黒髪で女性らしいのだけど、なぜか中性的な魅力を感じる唐橋梨歌子ちゃん。
学校の撮影の時は“地味な子”を演じていたけど、今日はオシャレJK。
“どちらか選んでください”
なんて万世橋さんが言ったけど、二人の中から一人を選ぶのは残酷すぎる、そう言う訳で沙耶歌ちゃんと梨歌子ちゃん二人とデート。
「……この前も仕事があったんですけど、カメリハのみで、だけどわたしはどんな仕事でも全力ですよ」
「梨歌子ちゃん、カメリハってなに?」
「えっとですね、大物の女優さんが撮影に入る前に、実際の立ち位置に立って、カメラアングルとか照明の当たり方を調整するのですよ」
「番組スタッフの前だから、最高の笑顔で立っているんですけどね~」
沙耶歌ちゃんが言う、芸能界ってテレビに映るのは極わずかなんだね。
「へー、大変なんだねー」
「あとは、レッスンを受けて、オーディションを受けては落ち、受けては落ち」
沙耶歌ちゃんが自虐的に言う、やばい雰囲気が悪くなりそうだ。
「ところで、今から休むけど、どうする?」
俺の提案に二人は互いをけん制している。
「二人一緒でも平気だけど」
『お願いします!』
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仰向けにベッドに横たわる俺、左の胸を沙耶歌ちゃんがツンツン突いて、右の胸を愛おしげに愛でる梨歌子ちゃん。
こんなまっ平らなものを触って何が楽しいんだろう?
とは言え、胸からの刺激に男子高生は再び元気を取り戻してきた。
「ちょっと、カイ君、また硬くなってきたよ」
「うそ! わたし達二回ずつしてもらったよね」
「もう一回なら出来そうだけど、どうする?」
「えっとー……」
「……あのー……」
ジャンケンに勝ったのは梨歌子ちゃんだったよ。