53.JCを抱っこ
撮影が終わったタイミングでドアが開き、ガヤガヤと大人数が入って来る、さっきのバレー部の子達だよ。
「はーい、みんな聞いて、わたしは伊予って言うの、女子スモーのお姉さんだよ、オッパイのお姉さんじゃないからねぇー」
笑いを交えながらもバレー部員達にスモーを教えている出版社の伊予さん。
「スモーって、簡単に言うと力比べの押し合いなの、相手を押す時には必ず手の平でね、グーはダメよグーは……」
あっという間に相撲の取り組みがそこかしこで始まった、お互いに力加減が分からず、固まってしまったり、相手の胸をまさぐり出して、悲鳴を上げた子にストップをかけたり。
それでも30分位経つと試合らしくなって来て、センスと身体能力の有りそうな子を数名選んで戦わせる事にした。
「ハーイ、この八人でトーナメントをしますよ、優勝した子にはご褒美で、そこにいるカイト君とお相撲が出来まーす」
出版社の伊予さんだけど、女子バレー部員を思い通りに動かして、やはり部活経験の差だろうか。
最初のうちはどうなるだろうかと、心配していたけど、気がつけば普通に取り組みが出来る様になっていて、あっという間に決勝戦。
優勝した子、体格はそこそこな子だったよ。
「それじゃ、自己紹介してみよう!」
「あの、2年の川中法子です」
「ちょっと、ちょっと、法子ちゃん、カイト君に自己紹介するんだよ」
「川中です、よろしくお願いします」
“どうしてわたしが勝っちゃったんだろう?”
そんな当惑の表情。
「それじゃ、法子ちゃん、さっそくだけど、勝負を始めようか」
「それじゃ、わたしがギョージのお姉さんね」
伊予さん、絶好調じゃないですか。
元気な中学生に胸を貸してあげるつもりだったのに、中学生おお胸をお借りしてしまった、法子ちゃん、中二なのにママみたいだよ。
もっと気持ち良い事をしたいけど、そんな事をすると、スモーが誤解されてしまうからね、最後は真剣勝負だったよ。
▽▽
スモーイベントが終わった後は、ちゃんこ鍋、 ピロティでは炊き出しが始まっていて、バレー部員達がお椀を抱えて、キャイキャイ笑っている。
スモーイベントに協力してくれお礼なんだけどね。
代理店の岡三さんが急いで手配したそうで、これだけの人数分の鍋を数時間で準備するなんてすごいね。
その代理店の岡三さんが俺に近づいて来て、耳打ちする。
「カイト君、みんなさん、お楽しみですよ、さすがはオトコ鍋と言ったところですね」
「岡三さん、あれはちゃんこ鍋って言うんですよ」
「もちろん存じています、さすがは男子高生作家だけの事はありますね、名うてのコピーライターでも、あんなネーミングは思い浮かびませんよ……」
その後、話しをしたけど、ちゃんこ鍋の“ゃ”を取ると、まさにオトコ鍋、前世の知識の有る俺には考えもつかない発想だけど、この世界の女子中高生は、刺さるネーミングだそうだ。
▽
その後オトコ鍋大会の場を後にした俺、今日は朝が早かったから疲れたよ、早く帰って休みたいけど、気になる事がある。
マネージャーさんを手招きする。
「今日来た女の子達と話をしても良いの?」
「それはもう、大歓迎ですよ、あの子達も日本橋プロ所属ですけど、まぁ、あれですし……」
なんか、ハッキリ言わないね。
「どこまで大丈夫なの?」
「お好きなように使ってください、コーヒーまで行けば、こんなに名誉な事はないです」
「だけど芸能人だよね、スキャンダルにならないの?」
「あの三人は、ええ、まぁ、先の無い子達なんですよ、毎年新人が大量に入って来るこの業界ですからね、デビューのタイミングを逃した子が日の目を見る事は無いです。
それでもわずかな可能性に賭けて努力を惜しまない子達もいます。
今日彼女達を呼んだのは、頑張っている子にご褒美みたいなものだったのですよ」
俺はブサ顔、じゃなくて普通の顔の子三人を指名してアドレスを交換した、若さがほとばしる俺だ、一晩で三人くらい平気だろう、だがそれは失礼と言うもの、デートは一対一でするのが礼儀だよね。
▽
マネージャーがホテルのレストランを押さえてくれた、そのまま部屋に行けるポジションだけど、これは警護の必要も考えての事、そして俺の向かいにいるのは、数寄屋橋萌歌ちゃん、クリクリした目と愛くるしい口元が特徴的な女の子、改めて言うけど、ブサ顔ではない、普通の子だよ。
「……そうなんですよ、子供のころから習い事はたくさんやらせてもらっていましたからね、その中でも好きだったのが児童劇団なんですよ」
「萌歌ちゃんは演劇を希望なのかな」
「女優さんになれたら最高ですよね、映画女優とかテレビでも良いですけど、だけど舞台には惹かれる物があります、なんて言ったら良いのかな、お客さんを目の前にした時の緊張感は癖になりますよ」
クリクリした目と同じ位に口も回るし、頭の回転も速い子だ。
「マネージャーさんには希望を伝えてあるの?」
「もっちろんですよー、三船橋穂乃歌さんみたいになりたいって言いました、日本橋プロを選んだのもの三船橋さんがいたからですよ」
「聞いた話だと、子役時代は凄かったらしいね」
「ええ、ですけど中学に上がった後も演技に磨きがかかって好きでしたよ、引退された時はショックでした」
実は俺は、その三船橋穂乃歌ちゃんと仲良くなったんだけどね、穂乃歌ちゃんは中学に上がってからは全然人気が無かったって言っていたけど、ちゃんとファンはいたんだね。
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朝のまどろみの中、脇腹に体温を感じる、見下ろすと萌歌ちゃんの幸せそうな寝顔、俺の視線に気がついたのか、パッチリと目を覚ました女の子、ニッコリと最高のスマイルを送ってくれた。
「起こしちゃってゴメンね」
「最高の夜をありがとね、カイ君」
「俺も気持ち良かったからお互い様だね」
「三船橋さんとは比べ物にならないでしょうけど、お粗末様でした」
「三船橋って?」
「カイ君、三船橋さんと深い関係ですよね、あっ、別に責めたりしている訳じゃないですよ、ただ昨日お話しをしていて、三船橋さんのお話しになると、ほんの少しだけど眉が上に動いたんですよ、だから、もしかしたらと思って」
「その通りなんだけど萌歌ちゃん、凄いよ、探偵さんになれるよ」
「演技って、最初は人の観察からなんですよ、その人の息遣いや視線の動かし方、筋肉の動きとかを見て、それを真似するの……」
その後コーヒーを飲みながら演劇論を戦わせた、萌歌ちゃんは主演にはなれないかもしれないけど、良い助演さんになれると思うよ。
最初は。
ディストピア的世界観 + 女の子とイチャイチャ、 だったのですが。
お仕事小説 + 女の子とイチャイチャ、 になっています。
写真とか出版の仕事に興味の無い人はサラリと読み流してください。
出版社の十六モモ、中京圏の方ならおなじみの名前ですけど、ふり仮名に迷いました“いざよい”と読ませるのが王道かもしれませんが、本来の読み方を優先で。