52.裸にビブスはNG
万事滞りなく進んでいた撮影だけど、体育館でひと悶着。
「……ここは、今日はわたし達が貸し切っているはずですよ」
「そんな事ありません、大会が近いから、顧問に頼んだのです、練習はして良いはずですよ」
「万世橋さん、何のトラブル?」
「ああ、バレー部が試合が近いから練習をしたいと言っているのです、こう言ったトラブルは外での撮影ではよくある事なので、気にしないでください、わたし達が先に貸し切りをしたのですから」
部活っぽい写真を撮っているのに、本当の部活が練習できないなんて、何かおかしいよね。
「岡三さん、バレー部の子達が練習をしたいのでしょ、譲ってあげましょうよ、本来はこの子達の学校なんですから」
俺が前に出て行くと、今までケンカ腰だったバレー部員達もザワザワし始めた。
“男の人だよ”
“わたし、初めて見たかも”
“めっちゃイケメンだし”
結局体育館の半分を使ってバスケ部と卓球部の撮影になったよ、写楽さんに言われた通り、演技と言うか、その役に成りきって撮影をした。
素肌の上にビブスを着て出てきたら、バレー部員達から悲鳴の様な喚声が上がって、三田さんにバスタオルを被せられた。
その後は普通に部活っぽい撮影は、滞りなく進んだけど。
隣のバレー部は試合前だと言うのに、チラチラわき見ばかりして、これじゃ大会が思いやられるね。
撮影が終わった後はバレー部にお礼を言いに行く。
「今日は体育館を使わせてくれてありがとうございました」
キッチリと頭を下げる、この子達の学校を借りているんだから当たり前だよね、だけどバレー部員達は。
“どうしよう、男の人に頭を下げられちゃった”
“やばいよ、わたし達、捕まるかも”
万世橋さんが俺の横にやって来ると。
「カイト君、そんな簡単に頭を下げてはダメです、彼女達はまだ中学生ですよ」
「だけど、お礼はしないとね」
「それは立派な心がけですけど」
「あっ、そうだ、この子達もスモーに呼んだら?」
「さすがはカイト君、ですね、よろしいです、急いで手配しましょう」
代理店の岡三さんが聞き耳をたてていたけど、なんだかんだで動きの早い人だよ。
▽
小集館のローティーン向け雑誌、プチ・ジュニの編集部のお姉さん十六モモさんが俺のところにやって来る。
「カイト君素晴らしいです」
男だから何をやっても褒められるけど、これって相手の本音が分からないと言う意味でもあるから、素直に喜べない。
だけど不機嫌な表情をしたり、怪訝な顔をしてはダメだよ。
「モモさん、ボクの何が素晴らしいのかなー?」
「使える写真が盛り沢山な所が素晴らしいのです、こう言った撮影ではカメラマンさんは何百枚と言う写真を撮りますけど、使いものになるのは、ほんの数枚なんですよ」
「あー、やっぱり、表情とかかな?」
「さすが、分かっていらっしゃる、それでですね、これだけ使える写真が有るのだから、紙面を替えてみようかと思っているんですよ」
「はぁ、そもそも、どう言う紙面を作るのかも知りませんから」
「素案では、7から8ページ程カイト君の部活のカラー写真を入れて、最後のページにスモーを入れて、シームレスに読者を誘導する予定だったんですけどね、
使える写真がこれだけあるなら、毎月一つの部活で特集を組んでも余裕じゃないかと思って、編集長に連絡したらあっさり快諾してくれました、やっぱり社長と知り合いと言うのが大きいですよね」
「ボクは単なるモデルですから、雑誌の編集はお任せします」
「快いご返事ありがとうございます、まぁ、わたしも編集部なんて言いながらも外注任せなんですけどね」
「そうなんですか?」
いや、雑誌の編集なんて分からないよ。
「よく、グラビア写真なんかに気の効いたコメントが書かれていたりするじゃないですか、キャッチって言うんですけどね、わたしの担当雑誌では、全部外部のコピーライターにお任せしているんですよ。
中には自分で書いちゃう編集者もいますけど、ある程度の水準を求めるなら外注した方が確実ですし。
あとは、写真のレイアウト、どの写真をページのどこに配置するかも、DTPデザイナーさんにお任せですよ」
「それじゃ、モモさんの仕事なんて無いじゃない」
「そうでもないんですよ~、外注手配はこちらの要望をしっかり伝えておかないと、とんでもない事になってしまいますからね、
編集の仕事は記事のコンセプトをしっかりと決めて、それを外注先に徹底させることですよ……」
本一冊作るには大勢の人が関わっているみたい、俺は十六モモさんと出版の話をしながら多目的ルームに向かう。
この中学には多目的ルームと言う少し天井が低い講堂の様な部屋がある、それがこの学校を選んだ基準でもあるのだが。
講堂はカーテンを閉め切って、真っ暗にした状態、そこに撮影用の照明機材を持ち込んで有った、数時間の撮影でライティングが重要だと言う事を理解した俺には最高の撮影環境に見えるよ。
照明の中心には土俵がプリントされたカーペットがひいてある。
「さぁ、カイト君、今から女子スモーの指導をお願いしますよ」
編集部の十六さんが言う。
「十六さん、ボクは何をすれば良いのかな?」
「そこの三人に稽古をつけてください」
常にバックにいたお姉さん三人、陸上部の撮影ではグレーの体操服を着て、俺のバックでストレッチをしたり、ストップウォッチを持ったりしていた。
吹部ではクラリネットやサックスを持っていたね。
三人とも髪を二つ縛りにして個性を消している、顔は芸能人にしては地味な感じ、もちろんバレー部員達に比べたら、遥かに上なんだけど、何と言うか華が無い感じだよ。
そんな地味な子達はグレーのレオタードにまわしパンツを穿いている。
「それじゃ、そこの君と、こっちの君、見合いのポーズを取ってみて」
『はい!』
二人は向かい合った状態になる、しっかり予習をしてあるみたいだね。
「それじゃ取り組みだよ、ハッケヨイ、残った!」
女の子は結構真剣に組み合っている、そんな彼女達に俺は、
“こっちのまわしを掴んでみて”
等とアドバイス。
そんな俺を写楽さんがパシャパシャと連写している。
やっとスモーの出番です。