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51.最高の一枚

 グラビアアイドルは美人でスタイルさえ良ければ勤まるものではないと言う話しです。



 帝都の外れにある中学校を貸し切り撮影会、始発電車の時間帯は散歩の人もまだいない、朝靄の時間帯だ、無人タクシーから降りると。


「荒川カイト様、入りまーす!」


『よろしくお願いしまーす』


 広告代理店の通電堂、出版社の小集館、カメラマンさんとその助手、芸能事務所関連の人達、大勢のスタッフに迎えられる。


 俺は護衛の淡路島先生、秘書のリンちゃん先生、代理店に厳しい三田さん、そして芸能事務所のマネージャー万世橋まんせいばしさんを引き連れて、何の実績も無いのに男と言うだけでスター扱い。


 カメラマンさんが、今日の流れを説明してくれる。


「やぁ、わたしは写楽しゃらく、今日のカメラマンだよ、カイト君、仕事を受けてくれてありがとう、素晴らしい素材だね、君の魅力を最大に引き出すからね」


「ありがとうございます写楽しゃらくさん、ところで今日は最初に屋外撮影でしたよね、まだ太陽も低いし、雲も出ているから、順番を入れ替えた方が良くないですか?」


「カイト君、それは逆だよ、屋外撮影なら曇り空が一番なんだよ、日差しが強いと目を細めてしまうからね、カッコ良いお顔が台無しになってしまうよ、

 そうじゃなくても、モデルさんの顔は常にレフ板で照らされているからね、

あっ、レフ板って分かる?」


「そこの白い板でしょ」


「その通り、これで柔らかい光を顔の下から当てるのさ、SNSで自撮り画像をアップする人が多いけど、わたしに言わせてもらえば残念写真を晒している様なものさ、ちょっとした工夫で、見違えるようになるのにね」


 ▽


 最初の撮影は自転車部、学校のアプローチをロードレーサーで走るだけって言われたけど、5人のお姉さんレーサーが待っていた。


「カイト君、自転車は乗れる? 念の為に言っておくけど、これは競技用自転車でアシストは付いていなしし、何よりもジャイロが無いから、簡単に転んでしまうんだよ」


「あー、全然問題無いですよ」


「そうなんだ、それじゃこのアプローチを周回してみて、問題無いと思ったらお姉さん達が追走して来るけど、気にしないでいいよ、大丈夫、このお姉さん達は全員実業団登録している選手だよ」


 初めて乗るロードレーサー、信じられないくらい軽くて、ちょっと漕いだだけで時速30キロくらい出てないか?

 俺は言われたまま学校のアプローチを周回、気がつけば“シャー”と言う音が聞こえて来て、実業団登録のお姉さん達が追走してきているのが分かる。


「カイト君! 後ろは気にしないで、今まで通り走って」

 カメラマンさんの写楽しゃらくさんの声。


 何十周したのか数えるのもやめてしまった頃、ストップがかかり、俺は写楽しゃらくさんのもとに。


「いいねぇー、カイト君、良いアングルで撮れたよ、見てみるかい?」


 少し大きめのタブレット端末には、どこかの自転車レースの場面が。

「これ、何の写真です?」


「カイト君だよ、ほら、そこを曲がったところ」

 確かに言われてみれば、背景が流れていてスピード感が出ているけど、中学のアプローチ。

 だけど出来あがった写真はどこかの自転車レースで、俺が先頭を走っている場面にしか見えない。


「さすがはプロですね」


「どう致しまして、時間が無いから陸上部の撮影に行くよ、丁度雲が晴れて来たから、あの太陽を夕陽に見たてよう」


 雲の間から顔を出して来た朝日を夕陽だと言い張る写楽しゃらくさん、彼女の指示に従って、部活の後のストレッチの場面をパシャパシャと連写。



 棒高跳びの棒を構えていると、

「カイト君、今どんな気持ち?」


「そうですねー 失敗したらどうしようと言う不安感と飛ぶ前の緊張感が半々と言ったところでしょうか」


「君、なかなかセンス有るね」


「はぁ」


 多分褒められたのだと思うけど、どこがどうやって褒めてもらえたのかが良く分からないまま、クラウチングスタートで真剣な表情をしてみたり。


 並んだハードルを前に立ってみたり、それにしても陸上部って競技数が多いよね。



 陸上部の撮影が終わると、真っ白なワイシャツに大きめの赤いネクタイと言う現実感の無い制服に着替えて、吹奏楽部の撮影。

 音楽室に行くと三人の女の子が待っている、みんなトロンボーンやクラリネットを持っているよ。


「カイト君のトランペットよ、大丈夫マウスピースは新品だから」

 そう言って代理店のお姉さんがシルバーのトランペットを渡してくれる。


「おっ、いいねえぇ、カイト君、そのままペットを脇に抱えて見てくれる、そうそう、そのポーズ」

 フォーカス音が音楽室を満たす、さっきまでは外の撮影だったから気にならなかったけど、意外にうるさいね。


「はい、大丈夫だよ」


写楽しゃらくさん、サックスも持ちたいけど、時間有りますか、押しているなら、次に行きますけど」


「大丈夫だよ、サックスなら吹いているシーンで行きたいね、それっぽい形をとれるかな?」

 俺は言われるまま、リードを口に当て、少し目を細めて、表情を作る。


「ナーイス、ベリ、ナイスだよ、その顔で新入部員募集のポスター作れば、この部屋が溢れちゃうよ!」


写楽しゃらくさん、大げさですよ」


「そんな事は無いよ、むしろ控えめなくらいだよ、吹部の撮影の時は何を考えていたのかな?」


「えっとー、 楽器を脇に抱えている時は、部員同士で上手く音を合わせてセッションしよう、そんな感じでした、吹いている時は真剣でしたよ、コンクール前のオーディションを受けている気持でした」


「うん、そうだね、女の子達を見ている表情が仲間を見ている顔だったよ」


写楽しゃらくさんにはそう見えたんですね」


「今日はモデル撮影で、写真を撮るだけなんだけど、大切なのは演技力だよ、陸上部の時もそうだったけど、カイト君はシチュエーション毎に役に成りきっているよね」


「どうも」


「これは凄い事だよ、新人さんは、とりあえずポーズを決めれば良いと思いがちなんだけど、撮影に大切なのは演技力だよ、映像みたいに動きも音声も無い状態、たった一枚で役を表さなければならないんだよ」


 昨夜の真珠先生との演技レッスンが実を結んだんだね。



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