48.勉強、教えて欲しい?
最高の美女と過ごした後の朝ですが。
爽快とはいかないと言う話しです。
穂乃歌ちゃんと仲良くして、ウキウキした気分で、エレベーターを降りると、リンちゃん先生が待っていた。
「あれ、リンちゃん先生だ、先生もこのホテルに泊まっていたの?」
「さぁ、どうなんでしょうね、それよりカイト君、芸能事務所と契約したからこれから忙しくなりま……」
一瞬の出来事だった、俺に近づいて来る中年女性、あっという間に淡路島先生が間に入り、接近を阻止する。
そもそも淡路島先生がどこにいたかも、知らなかったよ。
「わたくし、怪しい者ではありません、政府関係者ですよ」
「まずは官職氏名を、そしてアポ無しで男性に近づいた理由も」
淡路島先生、俺と話している時は優しそうなお姉さんだけど、こう言う時は警護員、と言うか警察官だね。
「わたくし、厚生労働省、医政局の理事官を務めております、清瀬化々美と申します、いきなりの顔合わせで驚かせてゴメンなさい。
カイト君とは一度話しをしてみたいと思っていたのですよ。
もちろんわたしも公務員ですから、規則に乗っ取った方法でアポを取る事も出来るけど、そうなると堅い場になりがちでしょ、ちょっと雑談をしたいだけなのよ」
小さい身体で俺の前に立つリンちゃん先生。
「たとえ理事官と言えど、むやみに男性に近づくのは問題でしょう」
「あらあら、怖いわねぇ~
カイト君、赤石サンゴさんの件でお話をしたいの、いかがかしら」
「まぁ、それなら」
急に勝ち誇った顔になる清瀬さん。
「聞きましたね、職務熱心な男性警護員のお方、男性がわたしとの面談を望んでいます、そこをどきなさい」
その後もリンちゃん先生と言いあいになったけど、結局、カフェで話しをする事になった。
「それでは、そこのカフェでよろしいですね」
ホテル内のカフェを指さす厚生労働省の清瀬さん。
「ダメです、こちらが指定させてもらいます」
毅然と言い放つリンちゃん先生、普段のポヨポヨした物言いは、俺に合わせているだけなんだね。
リムジンタクシー、シートと言うか、応接間のソファみたいな場所に腰を下ろすと、隣に清瀬さんが座って来る。
俺と清瀬さんの狭い隙間に可愛いお尻を割り込ませ“フンッ”と鼻息を鳴らすリンちゃん先生。
淡路島先生は、ドアの入り口横に浅く腰かけている、難しい立場だよね。
「行き先は、古都石街の照月亭でお願いします!」
リンちゃん先生がアテンダントのお姉さんに伝える。
「あら、アテンダントさん、それでしたら佐々黎湖の際を走ってもらえませんか?」
「お時間が15分ほど余分にかかりますが、よろしいですか?」
『構いません!』
リンちゃん先生と清瀬さんが同時に答えた。
「古都石街なんて、帝都の端っこ、時間がかかるから、外の景色を観ながら、わたしが案内してあげましょう」
「ダメです、許可なく男性に話しかけないでください!
カイト君も返事をしてはダメですよ」
「あらあら、わたしはガイドさんですよ、そんな怖い顔しないでくださいな」
完全に清瀬さんペースだよ。
清瀬さんは道中の変わった建物や、通りの名前の由来などを教えてくれているけど、この人の目的はどこに有るんだろう、どうも政府の偉い人っぽいし。
「……ここまでが丘陵地帯で、そこのカーブを曲がるとキレイな湖が見えてくるわよ」
清瀬さんの言葉通り、青色に光る湖が見えて来た、周りは公園になっているらしいよ。
「ほら、カイト君、湖の向こうに白い建物がたくさんあるのが分かるかな?」
「その様な事、必要ないでしょう!」
リンちゃん先生がキンキン声で叫ぶが、清瀬さんはどこ吹く風。
「あそこはいわゆるF棟なの、日王市みたいなタワマンじゃなくて、二階か三階の建物を幾つも建てて、広場と言うかおしゃれなショッピングモールもあるのよ」
「医政局の理事官さん、F棟は厚労省でも社会・援護局の所管じゃないのですか?」
リンちゃん先生が皮肉たっぷりに言うけど、あっさりスルーされた。
▽
湖沿いを走り、古都石街の照月亭と言う、和風のホテルに着くと、三田さんが待っていた、この人リンちゃん先生の上司だよね。
イレギュラーな対応は上司に任せるのが正解だよ、わざと遠くのホテルを指定したのはリンちゃん先生なりの時間稼ぎだった訳だ。
「さて、厚労省のお方、本来なら名刺を交換するところですけど、休日の朝ですので、交換は無しでよろしいですね」
これは非公式な会談と宣言をした三田さん。
「もちろんですわ、休日の朝だと言うのに、完璧な装い、さすがは3係とはいえ内務省と言うだけありますね」
いつもは完璧な三田さんだけど、突然の呼び出しで、髪のセットは乱れているし、メイクも雑。
3係と言うのがどう言うポジションか分からないけど、三田さんのプライドを刺激した事は間違いない。
「厚労省は激務だとは伺っております、深夜も休日も関係なく仕事をされている様ですね」
「仕事と言うほどの事はしておりませんわ、今日はそこの荒川カイト様にF棟を案内してきただけですの、優しい彼はスタリオン学園生の傍若無人な振る舞いに心を痛めたご様子」
「事実認識に問題があります、カイト君はその様な事は一切喋っていません!」
リンちゃん先生が高い声で遮る。
厚労省の清瀬と言う人の話をまとめると、スタリオン学園で種付けされた女性達の多くがPTSDに苦しんでいるとの事。
赤石さんの話だとかなり強引な性行為の様だし、さおありなん。
不同意性交渉に心を痛める女性は多いが、出産し育児をして行くと症状は寛解していくそうだ。
問題は男児を産んだ女性、子供を取りあげられるので、育児を経験する事が無く、心を病んだままの人達が多く、そんな女性たちの為に厚労省がハミング・プログラムと言う治療プログラムを作ったそうだよ。
「清瀬さんでしたよね、厚労省が被害者の救済をなさっている事は理解致しました、ですがその事を内務省の管理下の男性に伝える必要があるのでしょうか?」
「そちらの荒川カイト様は日王市のF棟にて、性被害者と関わりを持ち、症状が劇的に回復したと言う実績があります、是非とも本省のハミング・プログラムに参加をして欲しいと思った次第です」
「生憎ですが、荒川カイト様は昨日芸能事務所と契約を済ませました、これから彼のスケジュールは多忙を極めるでしょう、その様な無理筋はご遠慮願いたいですね」
「それは、存じていませんでしたわ、芸能活動をする様になれば、学業にも支障が出て来るでしょうし、大変ですね」
「 ………… 」
油断できない交渉相手に、言質を取られてはならないと、黙り込んでしまった、三田さんとリンちゃん先生。
「あっ、そうですわ、F棟の女性にカイト様の家庭教師をさせてみてはいかがでしょうか? 学業の遅れも解消されますし、本省のハミング・プログラムにも良い影響があるとおもうのですよ」
強引に自分のペースで話を進める人を想像してください。