47.お馬さんごっこ
最上階のスイートルームに入ると、S級美少女は三つ指をついてお辞儀する。
「荒川カイト様、この度はわたくし三船橋穂乃歌を選んで頂きありがとうございました」
「ちょっと、穂乃歌ちゃん、いきなり土下座なんてしないでよ、普通にお話ししようよ」
「事務所期待の新人と、旬はとっくに過ぎたわたしでは釣り合わないと思いますが、お望みで有れば」
穂乃歌ちゃんは高三だった、歳上だけど“ちゃん付け”で呼ぶ様に、それから俺の事もカイト君って呼んでくれる様にお願いしたよ。
「……穂乃歌ちゃん、美人さんだよね、スタイルも良いし、むしろこれからが旬だと思うんだけど」
「カイト君は男性居住区で生活していたから知らないのでしょうけど、わたしは小五の時に大ブレイクしたのよ、最初はバラエティー番組のゲストだったけど、話題になって、ドラマの主役をやったし、CMは数えきれないくらい、映画も撮ったわ、歌も歌ったし、写真集も出したのよ」
「子供時代は凄かったんだね」
「あの時がピークよ、女の子はね、中学に入ったあたりから変わり始めるの、可愛らしい子供だったのが、大人っぽい顔つきになって、スラリとした身体に脂肪がついてくると、清純なイメージはどこかに消え去って、そうなると誰からも見向きもされなくなるのよ、中学時代は辛かったわ」
「今でも充分凄いと思うよ、誰だって歳相応の魅力があるんだし、新人になったつもりで活動すれば?」
「ダメなのよ、何をやっても“子役で大ブレイクした三船橋穂乃歌”って言われて、もう何年経つのかな」
「そんなに美人さんでも?」
「カイト君、わたし程度のルックスは芸能界では普通の子なのよ、同じ条件なら手垢のついていない方を選ぶわよね、分かるでしょ……」
穂乃歌ちゃんからは芸能界の暗部とも言うべき話しを聞かされた、ブレイクすると、次から次に仕事が舞い込んで来るし、撮影現場に行くと大歓迎。
だけど落ち目になって来ると局の廊下ですれ違った時に、挨拶すら返してくれなくなるそうだ。
人気が大事と言うか人気が全ての世界だよ。
「……落ち目になるとママとの関係もギクシャクして来たのよ」
「だけど芸能事務所に残っていると言う事は、穂乃歌ちゃんは、まだやり残したことがあるのかな?」
適当に言った言葉だけど、意外にも芯を突いた事の様で、固まってしまった穂乃歌ちゃん。
「もう潮時だなって思っていたんだけど、心の奥に“もしかしたらもう一度”って言う思いも残っていたの、未練がましいでしょ?」
俺は黙って首を左右に振る。
「だけど、もう無理、わたし今日付けで事務所を退社して一般人に戻るの、カイト君、華やかだった時代の最後の思い出をくれないかな?」
スッと立ち上がると、パサリと純白のシルクが床に落ちる、均整のとれた身体と言うのだろう、無駄な肉はついていないが、しっかりと女性らしさを主張している。
そのまま俺の足元に座り込み、見上げて来る美少女、整った顔で現実感が無い、俺はサラサラの髪を軽く手の平に乗せ、質感を確かめると、砂をこぼす様に下に流す、人形は頬を赤らめ、現実の女の子になっていく。
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朝の光が差し込むホテルのスイート、サラサラの髪を高い位置で結んだ美女が人なつっこい声で俺を呼ぶ。
「カイくーん、トーストはバター、それともジャムにする?」
「バターでお願いね、穂乃歌ちゃん」
身体を重ねた者同士、特有の距離感。
ルームサービスで朝食を頼んだ後は、お約束のコーヒーブレイク。
「ありがとうね、カイ君」
「こちらこそ、ワガママでゴメンね」
「子供のワガママには慣れておかないとね、わたし教育学部に進む予定なの」
「穂乃歌ちゃん、先生になるの?」
「芸能人はもう充分、次に進まないとね」
お人形さんは少し年上のお姉さんになっていた。
▽
「カイ君、シャツ着せてあげるね」
「いいよ、自分でやる…… …」
スッと俺の胸元に入って来て、器用に袖を通してくれる、昨日着ていた服だけど、しっかりとクリーニングされている、これが高級ホテルのクオリティなのかな。
爽やかな洗濯の香りと一緒に、女の子の甘い香りが鼻に届くと、自然と元気が出て来る。
俺の硬さに気付いた穂乃歌ちゃん。
「ちょっと、カイ君、どうしちゃったの」
「朝だから仕方ないじゃん」
「昨日はお馬さんだったのに、大丈夫?」
「なんなら、もう一回競馬しようか」
「バカ、死んじゃうわよ」
こちらの男性は性欲が弱いのかな? 男子高生なら普通だよね。
穂乃歌ちゃんに見送られて部屋を出る、なんか新婚夫婦の出勤風景見たいで良いね。
男子高校生なら朝から競馬場です。