45.代理店との折衝
広告代理店の社員の名前は証券会社からお借りしました。
初日の打ち合わせは殆ど何も決まらず、お開きとなって、数日後改めて出版社に向かう事に、メンバーは同じくリンちゃん先生と淡路島先生、そして内務省から三田と言う30代くらいの女性、どうもリンちゃん先生の上司っぽい。
これは前の世界で言うと、世間知らずの女子高生が大人の事情に巻き込まれそうになるのを防いでくれる人達だね。
「淡路島先生、毎回大変じゃないですか?」
「男子生徒が外出するのだよ、本来なら門を出た瞬間から、常に護衛が必要なんだよ」
「以前、今は監視カメラがあるから平気だって聞いたんですけど」
「カメラのおかげで犯罪の検挙率は100%に近いよ、だけどそれじゃダメなんだよ」
「100%より上を目指すと言う事ですか?」
「うーん、そもそも犯罪を検挙する必要の無い世界にするのが警察の目的なんだよ」
「そうです、カイト君は自分の価値を分かっていません、世の中の女性はなんとかして男を喰い物にしてやろうと、手ぐすねを引いて待っている狼なんです、犯罪者が検挙されたとしても、男の人は大きく傷つきますよ」
「帝都に行く時は常にわたし三田か代理の者、護衛の淡路島先生、卯月リンドウが秘書として横にいる事になります」
三田さんが俺に言う、リンちゃん先生は秘書なんだ、どっちかと言うと“秘所”
▽
二回目の出版社訪問では社長室ではなく豪華な会議室に通され、順番に名刺をもらう。
言うまでも無いけど、全員社会人で歳上、ボクの事は“カイト君と呼んでください”
と言っておいたよ。
そうそう、今日は大勢の人が来ているけど、広告代理店の人達だって、新川カイトの時にも名前は聞いたよね、何をするところかはよく分からないと言うのが本音だ。
「わたくし通電堂の取締役を任されております野村と申します、小集館さんから興味深いマーケッティングの依頼があったそうで、さっそくタスクフォースを編成しご提案に参った次第です」
「通電堂の社長自らおいで頂き、ありがとうございます」
小集館の池田さんが頭を下げると、他の人達も揃ってお辞儀。
「さて、さっそくですが、マーケッティングプランの大筋をお話ししたいと思います、ここからはうちの岡三が紹介いたします、しばしご清聴を」
30手前くらいの女性、いかにも仕事ができそうで、女だけどイケメンと呼びたくなる様な岡三さん。
「わたくし、通電堂の岡三と申します、今回はスモーのマーケッティングプランの依頼を受け、幾つかプランを作って参りましたが、その前に、目標についてお話ししましょう。
最終的な目標はスモーと言う競技を世の中に定着させる事です」
「岡三さん、スモーを定着とはどういう意味なのですか?」
「カイト君、文字通りの意味ですよ、作品を読ませて頂きましたが、これは全てカイト君の想像ですよね」
「まぁ、そうですね」
「わたし達は、カイト君の想像の産物のスモーを現実の競技とします、もちろん男性同士ではなく、女性同士の競技としてですよ。
最初は低年齢向け女性誌で知名度を上げ、地域の大会等のイベントを開き、それを発信していきます。
その様に競技が一般化すれば、あらかじめコンテンツを握っている小集館様が有利になるかと思った次第です」
「我々出版社は、まず本を売る事を考えるので、そこまで頭が回らないのだよ、岡三くんだったね、具体的にどの様な方法を考えているのか、教えてくれないかね」
小集館の池田社長が言う。
「はい、最初は10代前半の女性から知名度を上げ、ネットを活用しリーチを伸ばし、世間一般に認知されるようにして、パブリッシュマーケッティングに入ると言うのが大筋のプランです。
今回は作者が男性です、リーチに大きな助けになりますので、そこを前面に押し出したマーケッティングて行きたいと思います」
一旦区切り、周りを確認する岡三さん。
「カイト君に確認しておきたい事があります」
「なんですか?」
「写真を撮っても大丈夫ですか?」
「岡三さん、それはグラビアとか、写真集の事でしょうか?」
いきなり三田さんが割り込む。
「おおむねその認識でよろしいかと」
「分かりました、男性に了承を得る時にはハッキリと内容を伝えてください、曖昧な表現で言質を取ろう等としないで頂きたい」
「疑われる様な事を言って申し訳ございませんでした」
「さて、改めてカイト君にお聞きします、月刊誌のグラビアや写真集とかの撮影は平気でしょうか、あっ、もちろんカイト君は未成年ですから、着衣での撮影になりますよ」
「問題無いですよ」
「お待ちください、岡三さん」
再び三田さんが割り込む。
「着衣とは言え、画角次第では性的になりうります、我々がチェックする必要があります」
「では、献本をお渡しすると言う形でよろしいですか?」
「献本と言う事は、印刷も製本も済んでいる状態ですよね、もっと早い段階でチェックを入れたいです」
「それは印刷会社で立ち会うと言う形でしょうか、ご足労をかけるかと思いますが」
「製版はデジタルデータですよね、印刷前にデジタルデータをこちらに送ってください、それを我々がチェックしてから印刷をスタートすると言うルールにしてください」
「外部にデータを転送するのは、情報保全の問題がありますが、いかが致しましょう」
「官側の基準で暗号化をすれば、安全は担保されるでしょう」
「分かりました、その様な流れで調整致します」
俺としては小説を出版するだけだと思っていたのに、スモーと言う競技の知名度を上げる為のマーケッティングになっていた、話の中心は岡三さんと三田さん、もはや専門的すぎて入り込む余地は無いよ。
「……それではこちらのプレゼン資料をご覧ください……」
広告代理店の岡三さんがパワポで示してくれたプランはまずはスモーの認知度を上げるための方法。
いきなり20代向けの雑誌に殴り込みをかけるのではなく、中学生向け(実際の読者層は小学校高学年だそうだが)の雑誌に特集記事を載せると言うプラン。
それと併せてネットにも浸透させていくそうだ。
「……まずは最初の数ページはカイト君の部活っぽい写真で読者を釣ります、そして最後のページに女子スモーの一枚を載せ、その後はスモーの紹介記事を、
翌月号からはスモーの漫画や小説も展開も考えております」
「あの~、岡三さん、ボクはそんなにたくさん小説や漫画原作を作れないですよ」
「ご心配なく、弊社専属のライターがカイト君の文体を真似て小説を書きます、カイト君は監修と言う形で不備を指摘して頂ければ充分です」
「それでしたら、出来そうです」
「さて女子のスモーのスタイルとしてはこの様なイメージですが、いかがでしょう?
カイト君のご意見を伺いたいです」
プロジェクターにはスパッツと言うか、伸縮素材のタンクトップにまわしをつけた女の子。
「うん、ピッタリした素材なら服を掴む事もないですし、よいですね、まわしはやはり一本の布を巻いているのですか?」
「いえ、まわしはパンツスタイルです、サイドに数か所掴む部分をつける設計です」
ふんどしの存在しない世界だ、いや新川カイトの世界でもまわしを締められる人は少数派だったから、パンツにするのは正解だろう。
「カイト君には、最初は雑誌のモデル、その後はラジオ等で知名度を上げてほしいのです」
「岡三さん、お待ちください、モデルやラジオは男性に対しては問題があります」
「もっともなご指摘です三田様、男性がネットに出る事は問題です、ですが芸能事務所所属となればその限りではありません……」
広告代理店とか出版社の話は貞操逆転世界とあんまり関係ないですけど、表舞台に出る時には必要な存在ですので。
特に代理店、電●と博●堂が二強ですけど、他にもたくさんあります、アニメの宣伝に特化した代理店、地方自治体が得意な代理店、学校のマーケッティングが専門の代理店等、意外に身近です。