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43.怖いのは普通の人

 出版社の登場人物の姓は地銀からお借りしました。



 相撲小説を出版社に送ったら、是非来てくださいとの返事をもらったので、帝都に行こうとしたらリンちゃん先生に全力で止められ、淡路島先生と言う男性警護員のお姉さんと一緒に行く事になった、首都って猛獣放し飼いのサファリパークみたいなところかな。


「そう言えば、淡路島先生、帝都では男性はマンツーマンで警護されているって言っていたけど、やっぱり危ないの?」


「そうだね、いまや男性は世界の宝だから、海外の勢力が無茶を承知で拉致を試みる事があるし、怪しげな新興宗教が男性を連れ去ろうともするよ、だけど一番怖いのは普通の人達さ」


「普通の人が何をするのですか?」


「チラリと見ただけで“この男の人、わたしに気が有るんだわ”そう思い込んで突進して来るんだ、文字通りの意味でだよ」


「だけど、普通の女の人でしょ、体格的にはこっちが上だし、その気になればどうにでもなりますよ」


「これは大切な事だから言っておかないとね、カイト君に人は殴れないよ、と言うか男女問わず普通の人は、他人を傷つける事に物凄く抵抗があるんだ。

 シンフォニア高校で君の事を観察させてもらったけど、女の子達に優しいよね、そんな男性には荒事は出来ないから、警護員に任せてくれないかな」


 ▽


 リンちゃん先生や淡路島先生の考えはまったくの杞憂で終わった、小集館は立派な自社ビル、ガラス張りのエントランスの奥にキレイな受付のお姉さんが微笑んでいる。


「荒川様でございますね、社長がお待ちです、こちらへどうぞ」

 マンションのエレベーターに負けないくらい静かな箱に乗って見晴らしの良い社長室に。


 ▽


「いやー、待っていたよ荒川君、おっと、まずは皆さんに自己紹介をしないといけませんね、わたくしこの会社の取締役を任されております池田と申します、

 この度はとても素敵な小説を読ませてくれてありがとうございました、本来ならわたしが作家さんの元に行かなければならないところ、わざわざご足労頂いてしまって」


 そう言いながら改めて俺とリンちゃん先生に名刺を渡すけど、カフェの時とは違う名刺だ、ビジネス用と使い分けているんだね。


「池田 泉州せんしゅうさんですか」


「そうですよ、最近はわたしの事を役職で呼ぶ人ばかりで、そう言って名前で呼んでくれる人は珍しいのですよ、嬉しい限りですね」

 カフェのお客だった時とは大違い、経営者の顔をしているよ。


「名前くらいなら、いくらでも」


「ははっ、さすがですね、ですが男性は貴重な存在、そんな簡単に名前呼びはなさらない方が。

 さて、貴重な殿方がお書きした小説を拝見させてもらいました、大変斬新な切り口です、今すぐにでも出版したいくらいですが、色々と調整が必要な部分もあります」


 雑談は早々に切り上げ仕事の話に入るとは、意外にせっかちな人かな。

「はい、今日はその為に伺いました」

 流れる様に、応接セットに案内される。



 ちなみに席順は俺とリンちゃん先生が隣り合わせ、淡路島先生は座らずに、後ろで構えているSPスタイル。

 向かいには社長と、その隣に仕事の出来そうな30代くらいの女性、秘書かな?

 そう思っていたら社長が出来そうな女性を紹介してきた。


「彼女はうちの出版部の筑邦ちくほうと言う者で、社では一番のしっかり者で、それでいてフットワークも軽いんだ、どうだろう、彼女に荒川君の仕事を任せたいのだけど、良いだろうか?」


「社長自らが編集の仕事をする訳にはいかないですし、よろしいですよ」


「それではわたくし筑邦ちくほうと申します、出版部門で雑誌の発行を手掛けております」

 そう言いながら俺とリンちゃん先生に名刺を渡してくれる。


「あっ、どうもです」


「社長、ここでお話しを進めても構わないでしょうか?」


「もちろんだよ、荒川君はどうかな?」


「かまいませんよ」


「それではこちらを」

 プリントアウトされた数枚の紙を俺とリンちゃん先生、そして社長に渡す。


「それでは不肖筑邦ちくほうが皆さまに“荒川カイト様マーケッティングプラン”を説明させて頂きます。

 まずは小説ですが、これは内容的にかなり過激です、全年齢での出版はありえませんので、雑誌に連載という形を取り、ある程度の読者を獲得した後、加筆して年齢制限版での単行本化を考えております。

 連載雑誌はGOUVE、今更説明するまでも有りませんが、25歳以上の女性が対象の雑誌です」


「最近は苦労しているみたいだが、てこ入れか? 筑邦ちくほう


「社長、その通りでございます、現在は競合他社に蚕食されて、発行部数は往時の60%にまで落ちていますし、返本率も高止まりですので、アダルト小説の連載で一気に挽回をはかります」


「あのー、わたし警護の淡路島と申しますが、一言宜しいでしょうか?」

 背中の方から声が上がる、


「読者様の意見なら大歓迎ですよ」


「いえ、小説って地味ですよね、それだけで雑誌を買いますかね? わたしは表紙で選ぶタイプなので」


「ちなみにGOUVEは?」


「社長さんの前で心苦しいですけど、最近表紙が地味になりましたよね、あまり手に取らないのです、すいません」


「大人っぽい路線で行こうとしたのがアダになったな筑邦ちくほう


「まことに耳の痛い話です」

 淡路島さんの一言で筑邦ちくほうさんのマーケッティングプランは消し去られた。


 ▽


 こちらの世界に来てから、テクノロジー的には数十年進歩しているので、俺は昔の人状態、異世界に飛ばされて、マヨネーズで覇権を取るのは、所詮はラノベの世界と達観していたのだが、相撲小説は最高級のポルノみたいな扱いを受けている。

 今はポルノ小説をどうやって出版するか、みんなで熱い意見を戦わせている最中。



「……まずは知名度を高める事から始めるか」


「そうですね、いきなり出版しても受け入れられないでしょうし、ここは代理店を通してみるのはいかがでしょうか?」


「広告代理店なら飛びつきそうな案件ではないか」


「男同士の殴り合いは過激です、代理店の反応が気になるところです、幾つか当たってみたらいかがでしょう?」


 あれ? 筑邦ちくほうさん、相撲を誤解していないのかな。


筑邦ちくほうさん、相撲は殴り合いではありませんし、レスリングとも違いますよ」


「ですが相手を倒せば勝ちでしょ?」


筑邦ちくほうさん、必ずしも、倒す必要はありません、手か膝が地面に付くか、もしくは土俵から出たら負けです、押し合いをイメージしてもらった方が良いかもしれません。

 あっ、そうだ今から実演してみましょう、淡路島先生上着を脱げますか?」


「カイト君、この服の下には一般人に見せられない七つ道具が入っているんだよ」


筑邦ちくほう、社内で体格の良い女性を呼んで来い」


「パンツルックでベルトをしているのが第一条件です」



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