41.イケナイ妹
今まで食べ慣れていた物が食べられなくなるのは辛い事です。
雲母さんと琥珀さんに汗を流してもらった風呂上がり、メイドの紅玉さんがやって来た、この人達交代で仕事をして、と言ったのに、結局ブラック勤務しているよ。
「カイト様、よろしいでしょうか?」
「どうしたの、紅玉さん」
「実はフライドチキンを買って来たのですが、誰も食べたがらないのです、せっかく頂いた生活費を無駄にするのも心苦しいので、こちらに置いておきますね」
「ありがとうね、紅玉さん」
主人の為に堂々とジャンクフードを買って来るは問題があるけど、偶然余った物と言う形にして俺に食べさせてくれるとは、良いメイドさんだね。
ホカホカと湯気の出ているフライドチキンにしゃぶり付く、歯に骨が当たる感触が何ともワイルドで好きだ、クリスピーな衣も前の世界と同じ。
安っぽい油で揚げたフライドポテトも良い感じ、雑に塩をかけて味をごまかしているみたいで、懐かしい味だ。
そしてペットボトルに入ったコーラ、ボトルから直接飲むのも久しぶりだよ、パチパチと炭酸が弾けて口の中が痛いくらいだよ。
フライドチキンやハンバーガー、実はメイドさん達が時々作ってくれるのだけど、高級な食材で上品な味付け、素材も味も最高級だけど、これじゃない、もっとチープな物を食べたい。
男性専属のメイドさんは主人の健康管理は当然として、イメージも維持しなければならない、安っぽいジャンクフードを食べている様では、男の株価がストップ安。
「何と言うか満足したよ」
「こんな物で良ければいつでも、ですが健康の事もありますので食べ過ぎにはご注意くださいね」
「時々だから美味しいんだよ、毎日だと飽いて来るしね、ところで聞きたいんだけど」
「なんでございましょう?」
「数日前に妹の葵咲の本を読んだのだけど、ああ言った本の作者はどんな人なのかな、やっぱり女性かな」
「さぁー、わたくし出版の事は分かりませんが、常識的に考えて女性だと思いますよ」
「ボクがそう言った本を書いたらどうかな、男性にしか分からない部分も有ると思うし」
「それは面白そうですね」
「女性に人気のある男性の体形は何かあるのかな? 例えば細身が良いとか、ガッチリ型が良いとか」
「それは人それぞれですので、何とも言えないですけど、学生時代に同じ部屋の友人が大きくて体格が良く、少しだらし無い感じの男の人が良いと言っていました、当時は変わった趣味だと笑っていましたが、大人になってみるとそう言った好みの人が多くてビックリしたものです」
遠回しに言っているけどデブが好きな人もいるんだね。
「けど、そんなだらしの無い男性なんていないよね、それこそ小説の出番だと思うんだけど」
「楽しみですね、出来あがったらぜひ読ませてくださいね」
ああ、これはどうせ書けないでしょ、と言っている目だね、そりゃ男は甘やかされて楽な仕事しかしていないけどさぁ。
▽
“相撲”ネットで調べたけど、こちらの世界には存在していない、女同士の相撲も無しだ、ここは一つ相撲と言う競技のある世界にしてみよう。
関取と言うと歩くたびに肉が揺れるのでデブだと思われがちだけど、実は筋肉の塊、そうじゃなきゃあんな激しい動きは出来ない、そして大切なのが柔軟性、シコを踏む時には足が頭の高さくらいまで上がるけど、普通の人には絶対無理、頑張っても腰の高さだよ。
新川カイトの毒養父は学生時代相撲部だったそうだ、
“俺は関取だった”
と吹聴していたから、相撲の知識はそこそこあるのだよ。
面倒な背景説明なんて抜きにして、ドンドン相撲の世界を進めていく、男の乳首を見ただけで大騒ぎになるのだから、上半身裸の男性がぶつかり合うなんて最高級のポルノ、身につけているのが少し幅広の布の帯だけと言うのも意外に過激だね。
金曜の夜から書き始めた相撲小説、日曜の夕方にはそれなりに形になっていた。
さてと、小説も形になってきたけど、これって女性が読んで面白いのかな? 一番身近な女の子に聞いてみよう。
▽
向かいの室で教科書と取っ組み合いをしている妹を訪ねる。
「葵咲、今時間大丈夫か?」
「いいわよ、今一段落ついたの、何の御用かしら」
「おっ、美味しそうな物が置いてある」
机の上には食べかけのチョコチュロスがあったので、ヒョイっと摘む。
「お兄ちゃん、それわたしの …… まぁ、多少なら良いけど」
「ゴメンね食べちゃった、それよりか読んでほしい物が有るんだけど、暇な時にでも目を通してくれないかな?」
そう言いながらプリントアウトした相撲小説を差し出すと、キレイな仕草で受け取る葵咲、この子はちょっとした仕草でも、優雅と言うか、育ちの良さが出てくる子だよ。
「あら、変わった設定ね」
最初のうちは丁寧な仕草で紙をめくっていたけど、次第に雑な動き、目を大きく見開き一語一句見落とすまいとしている様だ、可愛い鼻の穴を広げて美少女台無しだよ。
「どうなか? 週末はこれを書いていたんだ、一緒に遊べなくてゴメンね」
「お兄ちゃん、出て行って」
「いや、感想を聞かせて欲しいんだけど」
「いいから出て行きなさい」
細い手で強引に押し出されてしまったので、肝心の感想は聞けていない、どうしようかなぁ、あっ、そう言えばバイト先のお得意さんに出版社の社長さんがいたよね、明日にでも連絡してみよう。
▽▽ 葵咲 ▽▽
本棚の一番下の段にある“世界偉人辞典”と言う誰も読みそうもない本、実はこれはブックケースだけで、中身は畳まれたビニール、前髪を揃えた美少女はフンフン鼻息を鳴らしながらビニールに命を吹き込んで行く。
“週三回って決めていたけど、あんな物を読まされて我慢できる訳ないじゃない”
清純美少女の妹ですが、スル事はしっかりとシテいます。