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3.君は貴重な男子だよ

 ナースを看護師とするか看護婦にするか、迷いましたが、ほとんどが女性の世界ではあえて〝婦”をつける必要もないかと思い、専門技術保持者の”師”としました。



 月は西に移り、オレンジ色の光が差し込んで来て、曖昧だった境界がハッキリと見え始める。


“ああ、やっぱり俺は病院にいるんだ”


 それにしても昨夜はリアルな夢を見た、最近溜まっているのかな。

 夢精とかしていないと良いけど、念の為股間に手を伸ばすけど、大丈夫そうだ。


「お目覚めですか?」


 ナースキャップを被った看護師さんが声をかけてくれる、昨夜のナースさんとは別人だ。


「あの、えっと、ここは」


「大丈夫ですよ、お名前は言えますか?」


「アラカワ・カイトですけど」


「荒川カイト君、あなたは酷い事故に遭って意識を失っていたのよ、治るまでわたし達が見守っていますから、ゆっくりと休んでね」


「いや、その今は何時なの、その家族とかに連絡は」


「大丈夫ですよ、ゆっくり休んで元気になりましょう、今ドクターを呼びますからね」


 ▽


 パンツスタイルでいかにも出来る女がやって来た、ショートカットで爽やかボーイッシュな感じだよ。


「やぁ、おはよう、さっそくだけど名前は言えるかな?」


「アラカワ・カイトです」


「うん、問題無いね、あー、そうそうボクの自己紹介がまだだったね、栃ノ木リン。

 軍の中央病院から出向してきた軍医さんだよ、あっ、軍医ってわかるかな?」


「ええ、まぁ、本来の意味で活躍しない方が良い人だと言う事くらいは」


「面白い事言うねぇー、荒川君、それだけ喋れれば充分だね、今から幾つか質問するから、知っている範囲で答えて欲しいんだ……」


 軍医さんは学校の名前や学年、家族やどこに住んでいたかを聞いて来た。




「……それで最後の記憶は深夜のコンビニなんです」


 ショートカットの軍医さんは難しい顔をして口を開く。


「だいたい分かりました、荒川カイト君、君は酷い事故に巻き込まれてしばらく意識が戻っていなかったんだよ。

 その時に何か脳に異変が起きて、記憶が混濁していると思うんだ、あっ、でもそんなに気にする事はないよ、こう言う症状は時間が建つと寛解する事が多いんだ。

 なんと言っても君はまだ14歳だしね」


「先生、さっきから言っているでしょ、俺は高校生の17歳ですよ」


「そうかなぁ、それにしてはちょっと幼い感じがするんだけどね。

 あっ、看護師さん鏡を持って来てもらえるかな?」


 俺は中学生だ、鏡を見せられれば納得するよ、それもまったく違う顔だ。


“ああ、俺は死んで転生したんだな”三年くらい時間を巻き戻して人生をやり直せるなら悪くない、だが自分が誰なのか背景がまったく分からん。


「俺はいったい誰なんでしょうね?」


「男性だよ、荒川君、君は貴重な男性だよ、今の世の中女なんて掃いて捨てるほどいるけど、男性は貴重な存在なんだ、そんな君が意識を取り戻してくれただけでも嬉しいよ」


「軍医さん、何言っているんですか、男と女は半々でしょ」


「荒川君が歴史の勉強が大好きだと言う事は分かったよ。

 確かに男女半々なんて時もあったのだけど、そんな時代は数百年前に終わったんだよ」


 男女比が大きく偏っている、夜中に愛を交わしたナースさんも言っていたし、ドクターも“そんな事あたりまでしょ”みたいな感じで言っている。



「……それで男性は国内にどれくらいいるのですか?」


「うーん、詳しい統計は明らかにされていないので、なんとも言えないけど、男が1で女が数百だと思ってくれればいいよ」


「そうですか」


「まぁ、男女比なんて考えても仕方ないから、今は身体を治す事に専念しようね、8時になると理学療法士さんも出勤して来るから、相談して回復プランを作るからね」


「わかりました、それと家族と会いたいのですけど」


「分かったよ、それも回復プランに入れておくね」


 颯爽と去って行ったドクター、軍人らしい感じだったよ。



 ▽



 しばらく入院する事になるみたい、病院と言っても清潔だけど無機質な病室ではなく、カーペットフロアーのホテルみたいな部屋。

 そして巨乳でエッチなナースさん、今も俺の足元にひざまずいて谷間を披露してくれている。


「カイト君、昨夜は良く眠れましたか?」


「はい」


「途中で起きたりはしませんでしたか?」


「別に」


「それじゃ血圧を測りますね」


 そう言いながら手馴れた動作でカフを巻くけど、胸が当たる。


 鏡を見て納得したけど、俺は中学生になっていた、それもまったく別人に、整った顔だがイケメン顔と呼ぶにはまだ幼い感じ、やっぱり転生なのかな。


 自分で言うのもなんだけど美少年の部類に入ると思う、このナースのお姉さん達は20代前半くらいかな。


「お姉さんお名前なんて言うの~?」


「えっ、ちょっと測定中におしゃべりはダメよ」


「はーい」


「はい、118の72、正常ですね、そうそうわたしの名前は白樺って言うのよ、カイト君」


「白樺さんもオッパイ大きいね」


「ありがとうね、カイト君、褒めてくれて嬉しいわ」



 ▽▽ ナースステーション ▽▽



 ナースステーションで朝のバイタルの記録をつける、もうダメだと思っていた患者が意識を取り戻すとは。

 こんなに嬉しい事はないが、彼は気になる事も言っていた。


“白樺さんもオッパイ大きいね“


 これはわたし以外に胸の大きな女性と接触したと言う事なの?


 わたしの他に胸の大きな人と言えば、準夜の楠美紅の乱れた髪が思い浮かぶ、もしかして、いやいや、そんな事は有り得ないだろう。

 荒川君はまだ意識が混濁しているだけだ、そうに決まっています。




 軍医のいる世界線です。

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