23.二回目はホテルで
階段踊り場ではかわいそうなので、ベッドの上でと言うお話しです。
鈴蘭ちゃんと紅葉ちゃんに案内されてゲーセンにやって来たけど、色々あって鈴蘭ちゃんと二人っきりにされてしまった。
「鈴蘭ちゃん、待っている間にヌイグルミ取ったよ、ほら」
俺はアルパカみたいなヌイグルミを見せるけど、可愛い物に無邪気に喜ぶ少女の姿はそこには無く、女が一人。
俺の制服の裾を摘んで俯いている、ここは最後まで行かないと鈴蘭ちゃんに恥をかかせる事になっちゃうね。
軽く抱き寄せると、俺に体重を預けて来る美月鈴蘭、影は一つになって裏通りに進む。
「ここで良い?」
黙って頷く鈴蘭ちゃんとラブホに入る、実は俺も初めてだ、奥まったところにある扉が自動で開くと、音も無く閉じる。
壁一面に部屋案内が表示されていたので、どうせ男性はタダだから一番高そうな部屋を選ぶ、どうでも良いけど平日の午後に四割以上の部屋が埋まっていた、みんなそれなりに楽しんでいるんだね。
部屋に入るとお互いに挨拶、やがて挨拶は下っていく。
▲
乱れたシーツに寝ている俺の胸にコテンと頭を乗せている鈴蘭ちゃん、ありがちな事後の光景だ、今日は二人ともケダモノの様な交わりで、もはやスポーツレベル、二つの汗が混ざっているよ。
髪を撫でてあげていると様子が変だ。
「鈴蘭ちゃん泣いているの?」
「……いいから、かんけーねぇから……」
グスグスした鼻声が帰って来た。
「ゴメン、もしかして痛かった? ちょと調子に乗り過ぎたね」
「違う、悪いのはカイト君じゃないの、わたしが悪いの……」
「教えてくれないかなぁ?」
「カイ君が乙夜と一緒にプリに入った時、すごく嫌だった、あいつが身体をベタベタ触られているのを見て、ムカッてしたの、カイト君はわたしのものなのに……」
「そんなに俺の事を思ってくれて光栄だよ」
「ダメなの、それじゃダメなのよ……」
鼻声は途中からシャクリになったけど、最後まで話してくれた鈴蘭ちゃん。
話を要約すると、男は自由に好きな子を選べるけど、女の子はそれを受け入れるしかない、そして何よりも大切なのは男は世界の共有財産、独り占めはダメだと言う事。
男に都合の良過ぎる世界だよ。
▽
鈴蘭ちゃんに送ってもらいマンションに戻ると、ベルガールのナズナさんがさりげなく近づいて来て、スクールバッグを持ってくれる。
「ありがとうね、ナズナさん」
「わたしごときに、お礼なんて、もったいないですわカイト様」
「あっ、そうだ、これあげるよ、いつものお礼、安物で申し訳ないけど」
クレーンゲームでゲットしたチョコ二箱を職務熱心なベルガールさんに渡す。
いつも完璧な表情のナズナさんは目を見開いている。
「男性からこんな素敵な贈り物を頂けるなんて、わたしこの仕事を選んで正解でした」
「ちょっと、大げさだって、休憩中にでも食べてくれたら嬉しいな」
▽
こちらの世界の男は威張っているのだろう、チョコあげただけであんなに感謝されるとは、妹の葵咲も予想通りの反応を見せてくれた。
「葵咲、いつも美味しいご飯をありがとう、これはお土産だよ」
クレーンゲームの景品を渡すと、安っぽいヌイグルミに頬ズリして喜んでいる。
「わたし、お兄ちゃんから何かもらったの初めてだよ、大切にするね」
▽
心なしかいつもより気合の入った晩御飯を食べて食休み、葵咲がお茶を持って来てくれる。
「どうぞ、お兄ちゃん、お茶ですよ」
「ありがとうね、ああっ葵咲、聞きたいんだけど」
「何かな?」
「ゲーセンとか良く行くの?」
「行っちゃダメですよ、ああ言うところは不良がたくさんいるんです」
「そうなの? 学校で禁止されているのかな」
「えっとー、禁止と言う訳ではないけど、行かない方が良いと、担任は言いますよ」
「そうなんだ、実はさっきのヌイグルミはゲーセンで取って来たんだ、返して来るよ」
「それはダメ!」
その後葵咲からこちらのゲーム事情を教えてもらったが。
なんと家庭用のゲーム機は存在しない、いや、スマホやパソコンがあれだけ発達しているのにゲーム機が無くておかしいと思っていたのだけど。
昔は家庭用ゲーム機が発売された事も有ったそうだけど、家に引きこもってゲームばかりしている人が増えてしまったので、家庭用ゲーム機は全面禁止、ゲームがしたければゲーセンに行くしかないと言う環境。
ちょっと政府の干渉が多すぎませんか?
そのおかげで街中にはゲーセンが溢れている、数が多いから競争も盛んで、パズルゲームに特化したお店や、三階建のビル全体がクレーンゲームだけのお店。
ワンプレイ5コインの投影型3Dゲーム機を前面に押し出したお店があるかと思えば、裏通りに旧型のゲーム機を並べて安さで勝負するお店。
最近の流行りはプレーをそのままネット配信出来る筐体、早い話が実況動画、色々な店がしのぎを削っているそうだ。