2.ユルユルナース
本来の”荒川カイト”は無くなって、そこに新川カイトが入り込み、人格が入れ替わっています。
目が覚めて最初に見たのは個性の無いコンビニの天井ではなく、見た事も無い意匠の天井。
叔父に日常的にバイトを強要されていたので、常に疲労感が溜まっていたのだが、今は全身から元気がみなぎる感覚。
うす暗い間接照明、カーテンの隙間からは満月が淡い光を放っていて、今が遅い時間帯だと言う事は分かる、ほんのりと消毒の臭いがするので病院だろう。
頭を整理すると俺は深夜のコンビニで働いていて気分が悪くなって座り込んだ、誰かが救急車を呼んでくれたのだろうか。
上体を起こすとベッドサイドにナースのお姉さんが座っている。
「看護師さん」
呼んでみたが返事は無い、ウトウトと居眠りではなく、爆睡状態、だらしなくヨダレを垂らし、クゥークゥーと寝息まで聞こえて来る。
「看護師さん」
結構大きな声で呼んだのだけど、まるで起きる気配はない、本当に医療関係者か?
ベッドから降りて、看護師さんの肩を軽く揺するけど、ウゥーンとうなっただけ。
“どうなっているんだ?”
見下ろすとナース服の前が大きくはだけている、これはボタンを外したのではなく、最初からエロいデザイン、格安ペンギンの店でよく売っていそうなタイプだよ。
マジマジと見ると巨乳さん、下着で寄せて上げているとしても立派な持ち物。
“これだけ良く眠っているなら、ちょっとくらい平気だよね”
白い服の上から柔らかな物を触ってみる、想像していたよりもフニャフニャした感じだ、下から持ち上げて重さを確認していたが、次第に大胆になり正面から、真っ白なナース服が指の形にめり込む。
言いたくはないが隠しても仕方ないから白状しよう、俺新川カイトは童貞だ、今までの人生で女性の手を握ったことすら無かったのに、ずいぶん大胆だと思う。
気がつけばフンフン鼻息を鳴らし、双丘をまさぐっていて、看護師さんが目を覚ましたのに気がつかなかった。
「アラカワ・カイト君ですか?」
「はい、あの、すいません……その寝ていたので」
「いいのですよ、好きなだけ触ってください」
そう言うと白魚の様な指がナース服のボタンに伸びる。
「こんな布切れいりませんよね」
最後の一枚を見せつける様に床に落すと、月明かりの下に浮かびあがるのはギリシャの彫刻の様なボディーライン。
立派な持ち物はやもすれば重力に負け、下に流れるのだが、神秘的な力に支えられているかの様に形を保ち、先端は月に向かっている。
そんな上を向く二つの突起に刺激され俺も力強く上を目指し、入院服に形を残す。
月明かりの下で白い弾力と、硬い若さが一つになる。
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祝童貞卒業、今は巨乳ナースさんが清めてくれている、病院で看護婦さんとエッチなんてゲームの世界だけだと思っていたけど、本当にこんな病院があるんだね。
「はい、キレイキレイしましたよ」
口の周りを拭いながら、入院服を着させてくれる。
「ありがとうね、気持ち良かったよ」
「こちらこそありがとう、男の人なんて数が少ないのに、自然交接してもらえるなんて、わたしは幸せです」
「ちょっと、男の人の数が少ないってどう言う事?」
「何を言っているのかしら、この世界では…… 大変、もうこんな時間、交代しないと、慌ただしくてゴメンね、カイト君」
一瞬で下着を着け、白い服を着こむと、みだらななお姉さんはナースに変わる。
「お姉さん、名前は?」
「美紅よ! 楠美紅」
あまりにも自分に都合が良過ぎる、これは夢だ、自分が夢を見ていると自覚する明晰夢と言うものだろう。
▽▽ ナースステーション ▽▽
国立人工調整病院、男性専用病棟、この病棟に配属されるのは看護学校の成績優秀者のみ。
学校の成績は当然として、男性に忌避感や恐怖感を与えない様に、顔つきは幼く、それでいて身体は肉感的な若い女性ばかり。
エリート集団の男性専用病棟だが、あの楠美紅はダメだ、一般病棟すら務まらないだろう。
男性病棟は三交代看護、準夜勤帯の時間が終わり深夜勤に引き継ぐところだがまだ表れない、また病室で居眠りしているのだろう。
「先輩、遅れて申し訳ございません、患者様のバイタルチェックに時間がかかってしまいました」
「ああ、いいわよ、楠あなた明日も日勤が入っているでしょ、早く帰りなさい4時間くらい寝られるわよ」
髪の毛はボサボサだし、服も乱れている、もしかして添い寝したんじゃないでしょうね。
新人ナースがコッソリ意識不明の男性患者に添い寝をする、先輩が咎めないのは、楠の担当患者が回復の見込みの無い自殺未遂だと言う事、このまま意識を取り戻す事無く、ゆっくりと息を引き取るであろう、その時の辛さはいかほどか。
“新人は担当患者が亡くなる辛さを知らないからね”
男女比が大きく崩れたこの世界で、貴重な男性がゆっくりと息を引き取りつつある、考えただけで気が滅入りそうな現実だが、仕事は仕事と割り切らねば、さてと担当患者は… …
引き継ぎ時にカルテの確認をする規則だが、入院患者は少ないので、とっくに暗記してしまった、搾精検査の日に自殺未遂を起こし緊急搬送、その後意識を取り戻すことない14歳の中学三年の男子。
一般病棟では患者にバイタルセンサーをつけているので、夜勤ナースの仕事と言えばナースステーションでモニターを見ているだけ。
だが、男性病棟はプライバシー保護の観点から病室にセンサーやカメラは一切なく、ナースが患者の横で待機。
“荒川カイト君ね”
マニュアルに従えば自殺未遂患者が目を覚ました時には。
“あなたは酷い事故に遭って意識を失っていたのよ”
そう言わなければならないのだが、使った事は一度も無い。
二人のカイトにしたのは、病院での本人確認の為の設定です。
本当は誕生日も合わせなければならないのですけど、誕生日はスルーです。