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14.女の子の部屋



 ランチデートのはずが成り行きで野バラちゃんの家にまで行く事になった。

 自転車に乗っている時には妹の髪の匂いばかり嗅いでいたから気がつかなかったけど、この街の一番高い場所に建っているのが俺の住んでいるマンション、その周りに高級住宅街が有って、坂を下って行くと家の敷地も次第に狭くなる。


 前の世界に似ているけど、電柱と駐車場が無いのが違和感だ、電柱は地中埋設かな、車は謎だ、通りで見かけるのはバスとかデリバリーの車ばかり、自家用車の無い世界なのかな?


 そんな不思議な街、坂の途中が野バラちゃんの家、月ヶつきがせと言う表札がかかっていたよ。


「けっこう広い家だね」


「丘の上のマンションの住人が言っても皮肉にしかならないぞ」


「この家は何人住んでいるの?」


「四人だよ、わたしとママ、それとママのお姉さんの小百合さん。

 わたしは小百合ママって呼んでいるけどね、それと小百合ママの娘」


「なんか賑やかそうな家だね」


「あっ、大丈夫だよ、今は誰も居ないから、その大勢の女に囲まれて……えっと、怖い事は無いから」


 こちらの世界には父親はいない、家族構成は母と娘だけになるかと思ったら、親戚同士で住むのが一般的なのだろうか。


 月ヶつきがせ家は前の世界での平均的庶民の家と言ったところだろうか。

 二階建ての一階にママと小百合ママ、二階が娘達の部屋、狭目で傾斜も急な階段が前の世界を思い出させてくれる。


「こっちが紅花姉さんの部屋、今は医大に行っているから寮住まいなんだ、いない間は自由に使って良いって言われているからさ」


「野バラちゃんの部屋に入れてくれないの?」


「絶対にダメ、ちょっと飲み物持ってくるね」


 紅花さんか、医大に行くくらいだから優秀なんだろう、野バラちゃんも国立の高校に受かるのだから頭の良い家系かな。

 本棚を物色したけど参考書系の本ばかり、堅物のお姉さんかと思いきや本棚の一番下の引き出しから空気で膨らませる系のビニールの何かと、電気のコードみたいな物が出て来た。


 使い方は分からないけど、使い道は一瞬で理解出来たよ、これは見なかった事にしておこう。


「ウーロン茶持って来たぞー」


「ありがとー」

 そう言ってゴクゴクと飲む。


「いや、あんたダメだよ」


「何がダメなの」


「女の家で出されたものを無防備に飲んだりして、変な薬とか入っていたらどうするんだよ。

 と言うか男が家に上がり込む時点でやばいよ、女が大勢待ち構えていて、まわ……酷い事されたりとか、考えないのかよぉ」


「野バラちゃんはそんな悪い子なの?」


「わたしはそんな事絶対しないよ、そりゃ年頃だから色々考えるけど、そのさぁ、無理やりとか絶対にダメだと思うんだ」


「野バラちゃんは優しいんだね」


「別に」


 そう言って俯いてしまった同級生、下向きの女の子の顔は妙になめかましい、脇腹に手を伸ばしこちらに引き寄せると、嫌がる事無くしなだれかかる。


 身体を密着させると体格差を肌で感じる、見下ろす形になる顔を片手でアゴクイすると、うるんだ瞳と半開きの唇、プルプルしたピンクの口を塞ぐのは、薔薇の花弁に滴を流し込む準備作業。



 ▲



 窓の外は穏やかな午後の陽ざし。


「シーツ汚しちゃったね」


「カイト知っているか、この汚れは女の勲章なんだよ」


 俺の事を“あんた”としか呼ばなかった野バラちゃんだけど、今は名前で呼んでくれる様になった。


「紅花さんに怒られても知らないよ」


「へーき、それよりさぁ、コーヒー一緒に飲まないか?」


「いいよ」


「よっしゃー!」

 事後の弛緩した雰囲気を一気に破る野バラちゃんの気合。


「ベッドから出るからさぁ、カイトはちょっと向こうを向いていて」


「何言っているの、今更隠す物なんて無いでしょ」


「あるんだよー」

 強引に首の向きを変えさせられる。


 ▽


 大きめのマグカップを持ち、二人で向き合うのだけど、野バラちゃんのニヤケが止まらない。


「さっきから御機嫌だね」


「そりゃ、男と一緒にコーヒーが飲めるからな」


「昨日も散々一緒に飲んだじゃない」


 人差し指を立てて、小さく左右に振る野バラちゃん。

「チッチッチッ、カイト君、君は女を分かっていないね、事後に一緒にコーヒーを飲むのが女の子の憧れなんだよ、ドラマとか観ないの?」


 野バラちゃんにこちらのエンタメ事情を教えてもらった、普通のドラマで男女の絡みは放送できないので、事後のコーヒーを飲むシーンが、行為のメタファーとして使われているそうだ。


 ▽


 昨日に引き続きマンションまで俺を送ってくれた野バラちゃん、女として当然の義務で、男を一人で帰すなんて品格が疑われるレベルだそうだよ。


 妹の葵咲あおいは帰宅した俺に密着してクンクン鼻を鳴らしている。


「お兄ちゃん、今日会ったのは昨日と同じ人ですか?それとも違う人?」


「同じ人だよ」


「そうですか、同級生にご褒美をあげたのですね、いいでしょう、ここは妹として喜ぶところです」


 どうして上から目線なんだ、妹よ。


「あれ、お兄ちゃんのスマホ、着信していません?」


「誰だろう?」

 スマホには着信ではなく、メッセージが。


“週末に勉強会を開きたいのだけどカイト君都合はいかがかな? 

 神月原こうづきはらダリア”



 ドラマでは年齢制限もあるので露骨な性描写はできない代わりに、事後二人でコーヒーを飲むシーンがエロ行為の記号です。

 インド映画みたいに踊ったりするシーンを挟むよりは自然かと。

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丘の上のマンションが岡の上のマンションになってます。
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