12.叩かれても、大好きだよ、お兄ちゃん
妹は正統派の美少女を想像してください。
野ばらちゃんは少しきつめの顔をした知的な感じの美人顔のイメージでお願いします。
新川カイトだった頃は養父の家族と一緒に住んではいたが、俺はいない子として扱われていたから、天涯孤独だった。
こちらの世界に来てから家族が出来たと思っていたけど、実は他人だったとは。
子犬の様に俺に懐いている可愛い妹 葵咲、血がつながっていないと聞くと、色々考えてしまう。
だけどそんな事を表に出すと変な雰囲気になってしまうから、いつも通り二人で夕食、食休みをしていると得意顔でコーヒーカップを持って来た妹。
「あのさぁ、今日のお昼は友達と食事するってスマホに連絡来たけど、お兄ちゃんどこで食べたの?」
「えっと駅前広場のバンケッティって言うお店だよ」
「高級店じゃん、と言う事は女の人と一緒だったんだよね」
「まあね」
「どれくらいの女の人なの?」
「クラスメートで月ヶ瀬さんって言う子だよ、物理と化学が得意って言っていたけど、本当に好きなのは古典なんだって、変わっているよね」
「そうじゃなくて、えっと……見た感じはどんな人」
「ちょっと釣り目だけど、話をすると楽しい人だよ」
「お兄ちゃん、そうじゃなくて、どっちが美人なの?」
「誰と比べて?」
黙って自分を指さす葵咲、
「葵咲に決まっているじゃないか、クラスは30人いるけど葵咲より可愛い子はいないよ」
“ニヘラァァ”と表情を崩す妹、分かりやす過ぎだろう、
「まぁ、そうでしょうね、良いわよ、同級生と優しくデートしてあげなきゃダメだよ」
この子時々お姉さんみたいな態度になるね。
「デートは楽しかったよ、他の子ともしたいよね」
「ところでさぁ、バンケッティはどんなお店だったの?」
「メイドさんがたくさんいたお店だったなぁ~、各テーブルに専属のメイドさんがいるんだよ、初めて見た」
「それは想像以上に高級ね、リーズナブルなお店はタブレットで注文して、配膳モバイルが料理運んで来て、支払いもスマホ決済のみなんだよ。
まぁ男の人が行く事は無いだろうけどね」
安いファストフード店では店員とほとんど顔を合わせる事はないそうで、高級店になればなるほど、人と接する機会が増えるとは、前の世界と似ているね。
「そうそうお兄ちゃん、月ヶ瀬さんだったけ、女の人がお金を払ったんだよね、ちゃんと現金で払ったんでしょうね」
「財布を出したから現金だと思うよ」
「男の人と食事をする時とか、支払いはシワの無いお札で払わないといけないんだよ、知っていた?」
種明かしをすると女子生徒はシンフォニア高校に入学した時に“入学祝い金”としてピン札の入った財布を渡される。
もしも男に誘われた時に恥をかかない様にと言う学校側の配慮。
キャッシュレスが進んだ社会では、現金で買い物をするのは小学校の実習くらいの世界、本物の万札を始めて見た子も少なくない。
卒業までに財布の中身を取りだせば、それだけでステイタス。
それよりも野ばらちゃんは気になる事を言っていた、ママやメイドさん達を叩くなんて、本当かな?
「そうなんだ、あのさぁ葵咲、話変わるけど俺とママ達はどんな感じだった? 記憶が無くなって分からないんだ」
「えっ、あの、そう言う事は、まぁ、男の人だから、そのそれなりで」
「叩いたりした?」
黙って頷く妹。
「あの、それは、男の人なら当たり前の事で、むしろ痛い目にあわせてくれてありがとうって言いなさいって言われているくらいなんだから……」
どこまでクズなんだ、こちらの世界の男達。
「もしかして葵咲にも酷い事をしたの?」
「えっと、別にたいした事じゃないよ」
気まずさを感じて、目を反らす妹。
「痛くしたんだね、ゴメンね葵咲」
「ちょっとお兄ちゃん、何頭下げているのよ、全然平気だって、ほら、わたしこう見えて結構丈夫だし」
小枝みたいな腕で力コブを作る仕草をする健気な妹を見ていると、いたたまれなくなる。
「女の人に酷い事をしていた自分が許せないよ」
「お兄ちゃん、気にしないで、高校になってからすごく優しいじゃん、わたし毎日夢みたいな生活だよ」
「叩くのが当たり前なんておかしいよ」
「男の人だから平気だって、それにお兄ちゃんは痛い事ばかりじゃなくて、あのー、えっと……ママ達にご褒美もあげていたし」
「ご褒美って?」
「…… ママの上に乗っていたの」
ここは男女の比率が崩れてしまった世界なので精子が金よりも貴重。
白い液体を吐き出す男は王様の様な扱いを受け、暴君として振舞っているのだろう。
次第に社会の暗部が出てきます。
男児は女性に対する暴力が当たり前と言う環境で育てられます。